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式と証明|恒等式の係数決定(数値代入法)について

数学2

数学2 式と証明

今回は、恒等式の係数を決定する方法の1つである、数値代入法について学習しましょう。

恒等式の係数を決定する方法は、未定係数法と言われ、2通りの方法があります。未定係数法のうち、係数比較法については前回の記事で紹介しましたが、今回は数値代入法について紹介します。

数値代入法による恒等式の係数決定でも、係数を求めることは難しくありません。ただし、係数比較法と異なり、係数を求めた後に必ずやらなければならないことがあります。答えが分かったから良いではなく、なぜ必要なのかを理解しましょう。

未定係数法

恒等式の未知の係数のことを未定係数と言います。この未定係数を求めるには、恒等式の性質を利用します。

恒等式の性質は以下の通りです。

恒等式の性質その1

P , Qx についての整式であるとき

P=0 が恒等式 ⇔ P の各項の係数はすべて 0 である。

P=Q が恒等式 ⇔ PQ の次数は等しく、両辺の同じ次数の項の係数はそれぞれ等しい。

恒等式の性質その2

P , Qx についての n 次以下の整式であるとき、等式 P=Q(n+1) 個の異なる x の値に対して成り立つならば、等式 P=Qx についての恒等式である。

これらの性質を利用して、未定係数を求めますが、その方法は2通りあります。

未定係数法は2通り

  • 係数比較法
  • 数値代入法

係数比較法は、恒等式の性質その1を利用した方法で、前回の記事で紹介済みです。

数値代入法は、恒等式の性質その2を利用した方法です。この方法では、両辺に適当な数字をいくつか代入して、連立方程式などを解きます。

ここでは数値代入法を取り上げます。

数値代入法

係数比較法では、係数を求めるための連立方程式を解く必要があります。この連立方程式の計算が少し複雑で面倒なときがあります。そのようなときに、数値代入法であれば簡単に係数を求めることができます。

数値代入法では、直接、文字に数値を代入して、係数の関係式を導出します。与式に合わせて数値を代入するので、係数比較法のときよりも簡単な形の式ができます。ここが数値代入法のメリットです。

数値代入法を利用して解いてみよう

次の問題を解いてみましょう。

例題

次の等式が x についての恒等式となるように、定数 a , b , c の値を定めよ。

a(x1)(x2)+b(x2)(x3)+c(x3)(x1)=6

例題の解答・解説

等式を見ると、右辺は定数(0次式)ですが、左辺は定数a,b,cが0でない値だとすれば、2次式です。

与式のように同じ次数の項が存在しない場合、係数比較法だと面倒な計算になります。

係数比較法で解く場合

数値代入法との比較のために、係数比較法で解いてみます。左辺を展開して整理します。

係数比較法による解答例 1⃣

等式の左辺を x について整理すると

(左辺) =(a+b+c)x2+(3a5b4c)x+2a+6b+3cであるので、(a+b+c)x2+(3a5b4c)x+2a+6b+3c=6

両辺にある同じ次数の項について、係数を比較します。

係数比較法による解答例 2⃣

(a+b+c)x2+(3a5b4c)x+2a+6b+3c=6

両辺の同じ次数の項の係数を比較すると

{a+b+c=03a5b4c=02a+6b+3c=6

連立方程式を見ると、明らかに計算が面倒そうな式です。もちろん、このくらいの連立方程式であれば、解けて当たり前の計算ですが、それでも面倒なのは確かです。

①~③式について、加減法を用いて解きます。

係数比較法による解答例 3⃣

{a+b+c=03a5b4c=02a+6b+3c=6②+③よりa+bc=6①+④より2b=6よって b=3①×4+②よりab=0よって a=3①,⑤,⑥より3+3+c=0よって c=6したがってa=3 , b=3 , c=6

①~③式のすべてに3つの定数a,b,cが含まれるので、代入法よりも加減法の方が計算しやすいでしょう。

数値代入法で解く場合

係数比較法であれば面倒な計算になります。しかし、数値代入法であれば、驚くほど簡単に計算することができます。

数値を代入するので、与式をよく観察しましょう。できるだけ扱いやすい式を導出できそうな数値を考えます。

例題

次の等式が x についての恒等式となるように、定数 a , b , c の値を定めよ。

a(x1)(x2)+b(x2)(x3)+c(x3)(x1)=6

与式の各項が因数分解されていることに注目して、数値を代入します。

数値代入法による解答例 1⃣

与式が x についての恒等式であるならば、x にどのような値を代入しても等式が成り立つことを利用する。

x=1 を代入して2b=6x=2 を代入してc=6x=3 を代入して2a=6よってa=3 , b=3 , c=6

とても簡単な形の式を導出できるので暗算できます。ただし、ここで終わってはいけません。

数値代入法では、自分に都合の良い数値を代入したので、あくまでも代入した数値に対して等式が成り立つように定めた(必要条件)だけです。

このままでは、他の数値について等式が成り立つことを何も保証していません。そこで、係数を求めた後、与式が恒等式になることを必ず確認(十分条件)しなければなりません

求めた係数を左辺に代入して、与式が恒等式となることを実際に確かめます。ちなみに、「逆に」以下については別解があります。

数値代入法による解答例 2⃣

逆に、このとき与式の左辺は

3(x1)(x2)+3(x2)(x3)6(x3)(x1)= 3(x23x+2)+3(x25x+6)6(x24x+3)= 6

となり、右辺と一致するので、与式は恒等式となる。

したがってa=3 , b=3 , c=6

数値代入法による解答例 2⃣(別解)

このとき、等式の両辺は 2 次以下の整式であり、異なる 3 個の x の値に対して等式が成り立つ。

よって、この等式は恒等式である。

したがってa=3 , b=3 , c=6

別解は、恒等式の性質その2から言えることです。

恒等式の性質その2

P , Qx についての n 次以下の整式であるとき、等式 P=Q(n+1) 個の異なる x の値に対して成り立つならば、等式 P=Qx についての恒等式である。

別解の方が答案としては簡潔になりますが、実際に確認しているわけではないので、計算ミスに気付かないデメリットがあります。ですから、実際に与式が恒等式であることを確認する方が無難でしょう。

次は、恒等式の係数比較法を扱った問題を実際に解いてみましょう。