数学2
今回は、因数の見つけ方について学習しましょう。高次式を因数分解するとき、1次式の因数を見つけることが基本です。
因数の見つけ方にはコツがあるので、そのコツを覚えておくと焦らずに済むでしょう。
因数の見つけ方
因数の見つけ方と言ってはいますが、実際は「P(k)=0となるkの値の見つけ方」のことです。
剰余の定理を利用してP(k)=0となるkの値を見つければ、因数定理から因数となる1次式が分かります。上手くいけば一発で見つかりますが、要領が悪いと何度も計算する羽目になります。
基本的には、整式にx=±1,±2,……を順に代入して式の値を調べれば、ほとんどの場合で因数が見つかります。因数がすぐに見つかるのは、高次式が1次式の因数を複数もつ場合が多いです。
しかし、高次式が1次式の因数を1つだけしかもたなければ、なかなか見つからないときがあります。
因数をすぐに見つけられないと、焦って計算しがちです。そうならないためにも見つけ方を知っておいた方が良いでしょう。
恒等式の考えを利用する
ここでも恒等式の考えを利用します。因数定理が成り立つとすると、整式の因数が分かります。このとき、さらに商を定義すれば、割り算の基本公式から等式を導くことができます。
P(k)=0となるkの値の見つけ方 1⃣
\begin{align*}
&\quad P(x)=ax^{\scriptsize{3}}+bx^{\scriptsize{2}}+cx+d \\[ 7pt ]
&\text{に対して} \\[ 5pt ]
&\quad P\left(\frac{q}{p} \right)=0 \\[ 7pt ]
&\text{とすると、$P(x)$ は $px-q$ で割り切れる。} \\[ 5pt ]
&\text{商を} \\[ 5pt ]
&\quad lx^{\scriptsize{2}}+mx^{\scriptsize{2}}+n \\[ 7pt ]
&\text{とすると、次の等式が成り立つ。} \\[ 5pt ]
&\quad ax^{\scriptsize{3}}+bx^{\scriptsize{2}}+cx+d=\left(px-q \right) \left(lx^{\scriptsize{2}}+mx^{\scriptsize{2}}+n \right) \\[ 7pt ]
&\text{ただし、係数はすべて整数とする。}
\end{align*}
これまでの因数分解、特に、たすき掛けによる因数分解を思い出すと、以下のことを理解できます。注目するのは最高次の項の係数と定数項です。
P(k)=0となるkの値の見つけ方 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ax^{\scriptsize{3}}+bx^{\scriptsize{2}}+cx+d=\left(px-q \right) \left(lx^{\scriptsize{2}}+mx^{\scriptsize{2}}+n \right) \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\text{$x^{\scriptsize{3}}$ の項の係数と定数項を比較とすると} \\[ 5pt ]
&\quad a=pl \ , \ d=-qn \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad \text{$p$ は $P(x)$ の最高次の項の係数 $a$ の約数} \\[ 5pt ]
&\quad \text{$q$ は $P(x)$ の定数項 $d$ の約数} \\[ 5pt ]
&\text{である。}
\end{align*}
aはpとℓの積で表されるので、pとℓはaの約数でなければなりません。qも同様です。このことは因数分解の仕組みを理解していれば分かります。
この関係を利用すれば、P(k)=0となるkの値の候補を予想できます。
P(k)=0となるkの値の見つけ方 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ax^{\scriptsize{3}}+bx^{\scriptsize{2}}+cx+d=\left(px-q \right) \left(lx^{\scriptsize{2}}+mx^{\scriptsize{2}}+n \right) \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \text{$p$ は $P(x)$ の最高次の項の係数 $a$ の約数} \\[ 5pt ]
&\quad \text{$q$ は $P(x)$ の定数項 $d$ の約数} \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\text{ここで、$x=k$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad pk-q=0 \\[ 7pt ]
&\text{となるのは} \\[ 5pt ]
&\quad k=\frac{q}{p} \\[ 7pt ]
&\text{である。} \\[ 5pt ]
&\text{すなわち、$P(k)=0$ となる $k$ の候補は} \\[ 5pt ]
&\quad \pm \frac{ \text{定数項の約数} }{ \text{最高次の係数の約数} }
\end{align*}
先ほど、整式にx=±1,±2,……を順に代入すれば、ほとんどの場合で因数が見つかると言いました。しかし、このやり方だと、候補にならないものまで考えることになります。
もちろん、すべての候補について因数定理が成り立つわけではありません。それでも予めあたりを付けることができるので、無駄打ちを減らせます。むやみやたらに計算しなくて済むだけ確実に効率的です。
代入する数を絞ってから式の値を求めよう。候補に挙がらないものまで考慮する必要はない。
因数を見つけてみよう
次の例題を考えてみましょう。
例題
\begin{align*}
&\text{次の整式の因数を求めよ。} \\[ 5pt ]
&\quad 2x^{\scriptsize{3}}+3x^{\scriptsize{2}}-11x-6
\end{align*}
入試では、このような問題はまず出題されません。因数の見つけ方を使ってみるための例題です。
最高次の項の係数と定数項に注目
最高次の項の係数と定数項に注目します。P(k)=0となるkの値の見つけ方を利用します。
P(k)=0となるkの値の見つけ方
\begin{align*}
&\text{$P(k)=0$ となる $k$ の候補は} \\[ 5pt ]
&\quad \pm \frac{ \text{定数項の約数} }{ \text{最高次の係数の約数} }
\end{align*}
最高次の係数の約数と、定数項の約数を調べ、それらをもとに候補を書き出します。
因数を見つけよう 1⃣
\begin{align*}
&\quad P(x)=2x^{\scriptsize{3}}+3x^{\scriptsize{2}}-11x-6 \\[ 7pt ]
&\text{とおく。} \\[ 5pt ]
&\text{最高次の係数は $2$ であるので、その約数は $1 \ , \ 2$} \\[ 5pt ]
&\text{定数項は $6$ であるので、その約数は $1 \ , \ 2 \ , \ 3 \ , \ 6$} \\[ 5pt ]
&\text{よって、$P(k)=0$ となる $k$ の候補は} \\[ 5pt ]
&\quad \pm \frac{1}{1} \ , \ \pm \frac{2}{1} \ , \ \pm \frac{3}{1} \ , \ \pm \frac{6}{1} \ , \ \pm \frac{1}{2} \ , \ \pm \frac{2}{2} \ , \ \pm \frac{3}{2} \ , \ \pm \frac{6}{2} \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad \pm \frac{1}{2} \ , \ \pm 1 \ , \ \pm \frac{3}{2} \ , \ \pm 2 \ , \ \pm 3 \ , \ \pm 6
\end{align*}
最高次の係数の約数が分母に、定数項の約数が分子になるように分数を作ります。書き出した候補が、因数定理を満たすものかを確認してみましょう。
因数を見つけよう 2⃣
\begin{align*}
&\quad P(x)=2x^{\scriptsize{3}}+3x^{\scriptsize{2}}-11x-6 \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \pm \frac{1}{2} \ , \ \pm 1 \ , \ \pm \frac{3}{2} \ , \ \pm 2 \ , \ \pm 3 \ , \ \pm 6 \\[ 7pt ]
&\text{$x=-\frac{1}{2}$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P\left(-\frac{1}{2} \right)=2 \cdot \left(-\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(-\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(-\frac{1}{2} \right)-6=0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x+\frac{1}{2}$ すなわち $2x+1$ を因数にもつ。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=\frac{1}{2}$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P\left(\frac{1}{2} \right)=2 \cdot \left(\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(\frac{1}{2} \right)-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x-\frac{1}{2}$ すなわち $2x-1$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=-1$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(-1)=2 \cdot \left(-1 \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(-1 \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(-1 \right)-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x+1$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=1$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(1)=2 \cdot 1^{\scriptsize{3}}+3 \cdot 1^{\scriptsize{2}}-11 \cdot 1-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x-1$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=-\frac{3}{2}$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P\left(-\frac{3}{2} \right)=2 \cdot \left(-\frac{3}{2} \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(-\frac{3}{2} \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(-\frac{3}{2} \right)-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x+\frac{3}{2}$ すなわち $2x+3$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=\frac{3}{2}$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P\left(\frac{3}{2} \right)=2 \cdot \left(\frac{3}{2} \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(\frac{3}{2} \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(\frac{3}{2} \right)-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x-\frac{3}{2}$ すなわち $2x-3$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=-2$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(-2)=2 \cdot \left(-2 \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(-2 \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(-2 \right)-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x+2$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=2$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(2)=2 \cdot 2^{\scriptsize{3}}+3 \cdot 2^{\scriptsize{2}}-11 \cdot 2-6 = 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x-2$ を因数にもつ。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=-3$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(-3)=2 \cdot \left(-3 \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(-3 \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(-3 \right)-6 = 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x+3$ を因数にもつ。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=3$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(3)=2 \cdot 3^{\scriptsize{3}}+3 \cdot 3^{\scriptsize{2}}-11 \cdot 3-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x-3$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=-6$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(-6)=2 \cdot \left(-6 \right)^{\scriptsize{3}}+3 \cdot \left(-6 \right)^{\scriptsize{2}}-11 \cdot \left(-6 \right)-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x+6$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{$x=6$ のとき} \\[ 5pt ]
&\quad P(6)=2 \cdot 6^{\scriptsize{3}}+3 \cdot 6^{\scriptsize{2}}-11 \cdot 6-6 \neq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって、$P(x)$ は $x-6$ を因数にもたない。} \\[ 10pt ]
&\text{したがって、$P(k)=0$ となる $k$ は} \\[ 5pt ]
&\quad k=-\frac{1}{2} \ , \ 2 \ , \ -3
\end{align*}
例題のように、候補となる数として、分数が出てくることがあります。この場合、式の値を求めるのは面倒です。候補のうち、計算しやすい整数から先に確認します。
ここでは候補すべてについて式の値を求めましたが、実際には1つでも因数が見つかれば、残りの候補については確認しません。
整式を因数分解すると以下のようになります。1次式で割り算するので、組立除法を利用しましょう(ここでは省略)。
整式を因数分解して因数を確認
\begin{align*}
&\quad P(x)=2x^{\scriptsize{3}}+3x^{\scriptsize{2}}-11x-6 \\[ 7pt ]
&\text{とおく。} \\[ 5pt ]
&\quad P(2)=2 \cdot 2^{\scriptsize{3}}+3 \cdot 2^{\scriptsize{2}}-11 \cdot 2-6 =0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので、$P(x)$ は $x-2$ を因数にもつ。} \\[ 5pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad P(x)=\left(x-2 \right) \left(2x^{\scriptsize{2}}+7x+3 \right) \\[ 7pt ]
&\text{さらに因数分解すると} \\[ 5pt ]
&\quad P(x)=\left(x-2 \right) \left(x+3 \right) \left(2x+1 \right) \\[ 7pt ]
&\text{したがって、$P(x)$ は $x-2$ のほかに} \\[ 5pt ]
&\quad x+3 \ , \ 2x+1 \\[ 7pt ]
&\text{をもつので、因数定理より} \\[ 5pt ]
&\quad P(-3)=0 \\[ 7pt ]
&\quad P \left(-\frac{1}{2} \right)=0 \\[ 7pt ]
&\text{が成り立つ。}
\end{align*}
因数分解の結果から分かるように、与えられた3次式は3つの1次式を因数にもちます。3つの因数に関して、因数定理が成り立つはずです。
「因数を見つけよう2⃣」と見比べると分かりますが、候補を確認した結果と一致しています。
候補の優先順位
高次式の因数分解では、とにかく因数を1つ見つけることが大切です。
候補の見つけ方を用いれば、複数の候補が挙がります。しかし、例題から分かるように、すべての候補で因数定理が成り立つわけではありません。当たりはずれがあるので、候補に優先順位をつける必要があります。
優先順位の付け方としては、候補のうち、簡単な計算で済みそうな整数を優先します。上手くいけば、一発で余りが0となる値、つまり因数定理が成り立つ値が分かります。
基本的には、できるだけ小さい整数を代入して調べていけば、たいていの場合上手くいきます。
また、演習を数多くこなしていけば、各項の係数の並びを見て、代入すべき値を予想できるようになるでしょう。ただ、どうしても上手くいかない場合には、上記の因数の見つけ方で候補を考えてみると良いでしょう。
因数の見つけ方
- できるだけ小さい整数から代入して調べていく。
- どうしても見つからない場合、最高次の係数と定数項に注目して候補を考えてみる。
- いずれにせよ当たりはずれがあるので、一発で見つからなくても気にしないこと。
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さいごにもう一度まとめ
- 因数の見つけ方にはコツがある。
- 因数を見つけるとき、整式の最高次の係数の約数と定数項の約数に注目しよう。
- 因数の候補は、あくまでも候補。すべてが因数になるとは限らない。
- 候補は、整数のものを優先しよう。
- 因数が1つ分かれば、あとは組立除法で残りの因数を調べよう。