物理のヒント集|ヒントその9.力・速度・加速度のよくある勘違い(2)

物理,ヒント集

物理のヒント集

第9回の物理のヒント集は、第8回に続いて力・速度・加速度のよくある間違いについてです。

よく勘違いしやすい例を今回も紹介しているので、原理と自分の感覚が一致しているかを確かめておきましょう。正しい感覚で物理現象をイメージしましょう。

物体に働く力は運動の軌跡に沿う向きに働くって本当?

物体に働く力の向きの図

力・速度・加速度のよくある間違い例(2)

図のように物体が運動するとき、物体には運動の軌跡に沿った向きに力が作用している。

メガネ先生

こんにちは、メガネ君。ちょっと質問して良いかの?

メガネ君

こんにちは、メガネ先生っ! 何でもドンと来いですっ!

メガネ先生

それじゃぁ、行くぞい。物体に働く力は、図みたいに運動の軌跡に沿った向きに働くと考えて良いんじゃろうか?

メガネ君

運動の向きに力が働いていないと、物体が進まないような気がしますが……。

メガネ先生

まぁ、そう思うじゃろうのぅ。力学を学習したての頃は、そういう感じに捉えがちじゃの。

メガネ君

えぇ、ということは間違っているということですかっ!

メガネ先生

そうじゃのぅ、間違っとるのぅ。

メガネ君

ぐふっ……。

メガネ先生

メガネ君、ドンマイじゃ。

運動の軌跡に沿って力が働くとは、ここでは、物体が運動する向きと同じ向きに力が働くという意味です。このように思うのは、力学の初学者にありがちな思い違いです。

力学の基本原理は、ニュートンの運動の法則でした。

運動の第2法則

物体が図のように右上に移動しているので、物体が右上の方に引っ張られているように考えてしまいがちです。しかし、そのように考えるのは間違いです。

物体に働く力の向きの図
物体の運動と物体に働く力

よくある間違い例(2)に関する法則は、運動の第2法則です。運動の第2法則は運動の法則とも言われます。

運動の第2法則(運動の法則)

物体に力が働くと、力の向きに加速度を生じる。加速の大きさは、力の大きさに比例し、物体の質量に反比例する。

物体が運動しているとき、物体は運動の第2法則(運動の法則)に従っており、これを数式化したのが運動方程式です。

運動方程式

\begin{equation*} \quad m \vec{ a } = \vec{ F } \end{equation*}

ただし

$m$:物体の質量 $\mathrm{[ kg ]}$

$\vec{ a }$:静止している観測者から見た加速度 $\mathrm{[ m/s^{\scriptsize{2}} ]}$

$\vec{ F }$:力の合力 $\mathrm{[ N ]}$

運動方程式において、右辺の $\vec{ F }$ は、物体がいくつかの力を受けていれば、その合力を表し、向きと大きさをもつベクトル量です。

また、左辺の $\vec{ a }$ もベクトル量です。$\vec{ F }$ と $\vec{ a }$ は、等号で結ばれており、また $m \gt 0$(スカラー量)であることから、互いの向きが等しいことが分かります。つまり、力は運動の向きではなく、加速度の向きに沿って働くと言えます。

原理としては分かりましたが、いくつか運動の例を見ながら確認してみましょう。

水平方向の運動

水平方向の運動を考えてみましょう。図のように、滑らかで水平な床に置いた物体を糸で引っ張ります。ただし、一定の力で糸を引っ張り、また、鉛直方向の力はつり合っているので無視します。

水平方向の運動の図
物体が水平方向に運動する場合

物体を水平右向きに糸で引っ張るので、物体に働く力は張力だけです。この張力は水平右向きに働きます。

張力が働くので、運動の第2法則より、物体には加速度が生じます。この加速度の向きは、張力と同じ水平右向きです。

また、加速度の向きが水平右向きなので、速度は水平右向きに増していきます。それに伴って、物体は水平右向きに速度を上げながら運動します。いわゆる、等加速度直線運動です。

水平方向の運動

滑らかで水平な床に置いた物体を、糸で水平右向きに引っ張るとき

  • 力(張力):水平右向き
  • 加速度:水平右向き
  • 速度:水平右向き
  • 運動の向き:水平右向き

このような単純な水平方向の運動の場合、すべてが同じ向きになります。また、力は運動の軌跡に沿って、かつ同じ向きに働きます。このことが思い違いをする原因かもしれません。

鉛直投げ上げの運動

次は、物体をある初速度で鉛直上向きに投げ上げたときを考えてみましょう。水平方向の運動と全く違うことが分かります。

鉛直投げ上げの図
物体を鉛直投げ上げる場合

物体が投げ上げられてから、物体に働く力は重力だけです。この重力は鉛直下向きに働きます。

重力が働くので、運動の第2法則より、物体には重力加速度という加速度が生じます。重力加速度の向きは、重力と同じ鉛直下向きです。

また、鉛直上向きの初速度は、重力加速度が鉛直下向きなので、その大きさを徐々に減じていきます。それに伴って、物体の上向きへの移動距離も徐々に小さくなっていきます。そして、速度の大きさが0になったとき、物体は最高点に到達します。

物体が最高点に到達するまでの間、速度が鉛直上向きなので、運動は鉛直上向きに軌跡を描きます。このとき、重力は鉛直方向に働くので、運動の軌跡に沿うと考えることができます。

しかし、重力は、運動の軌跡に沿っていても、その向きが運動とは逆です。それに対して、加速度と同じ向きに重力が働いていることが分かります。

鉛直投げ上げの運動

物体が最高点に到達するまでの間

  • 力(重力):鉛直下向き
  • 加速度(重力加速度):鉛直下向き
  • 速度:鉛直上向き(最高点を過ぎると鉛直下向き)
  • 運動の向き:鉛直上向き(最高点を過ぎると鉛直下向き)

最高点に到達した後は、速度と運動の向きが鉛直下向きになり、すべての向きが同じになります。

斜方投射するときの運動(放物線運動)

さいごに、物体をある初速度で斜め上方に投げる(斜方投射)ときを考えてみましょう。

斜方投射の図
物体を斜方投射する場合

物体が斜方投射されてから、物体に働く力は重力だけです。重力は鉛直下向きに働きます。重力が働くことによって、物体には重力加速度が生じます。重力加速度の向きは、重力と同じ鉛直下向きです。

加速度が鉛直方向に働き、水平方向に働かないので、速度が変化するのは鉛直成分だけです。ですから、速度の鉛直成分と水平成分に分解して考える必要があります。

速度の鉛直成分

斜方投射したときの速度の鉛直成分

  • 初速度:初速度の鉛直成分(鉛直上向き)
  • 加速度:重力加速度(鉛直下向き)

⇒ 投げ上げの運動と同じ

鉛直方向では物体は投げ上げの運動をするので、初速度の鉛直成分は、鉛直上向きでしたが、重力加速度が鉛直下向きなので、その大きさを徐々に減じていきます。

速度の鉛直成分が徐々に小さくなるにつれて、物体の上向きへの移動距離が徐々に小さくなります。そして、鉛直上向きの速度成分の大きさが0になったとき、物体は最高点に到達します。

速度の水平成分

斜方投射したときの速度の水平成分

  • 初速度:初速度の水平成分(図の場合、水平右向き)
  • 加速度:0

⇒ 等速直線運動と同じ

水平方向では物体は等速直線運動をするので、速度の水平成分は、初速度の水平成分のままです。また、物体が最高点に到達したときの速度は、初速度の水平成分に等しくなります。

成分を合成した後の斜方投射

鉛直成分と水平成分を合成したものが、その地点での物体の速度です。このような速度に従って物体が運動するので、物体は放物線を描くように運動します。

運動の軌跡から、一般に放物線運動や放物運動と言われます。鉛直投げ上げの運動を水平方向に引き伸ばしたと考えると分かりやすいかもしれません。

物体が最高点に到達するまでの間、重力は運動の軌跡に沿って働いていません。やはり、物体に働く力は、加速度と同じ向きに働いています。

また、物体は、鉛直成分と水平成分を合成した速度の向きに従って運動していることが分かります。速度の向きは、一般に放物線の接線方向と言います。

斜方投射による運動(放物線運動)

  • 力(重力):鉛直下向き
  • 加速度(重力加速度):鉛直下向き
  • 速度:放物線に沿う向き(放物線の接線方向)
  • 運動の向き:放物線に沿う向き

鉛直投げ上げ運動と等速直線運動を合成したもの。このような運動の軌跡は、放物線を描く。

3つの運動の例から分かるように、力の働く向きは、加速度の向きと同じであることが分かります。また、運動の向きは、速度の向きと同じであることも分かります。

力と運動の向き

物体に働く力(の合力)は、運動の軌跡に沿って働いたり、運動と同じ向きに働いたりするとは言い切れない。ただし、運動の第2法則から、加速度と同じ向きに力(の合力)が働くことは確か。また、物体は、速度の向きに従って運動する。

さいごにもう一度

メガネ先生

どうじゃ、メガネ君。 物理の学習では、向きが大切なことを思い出したかの?

メガネ君

はいっ! 物理ではベクトル量を扱うので、向きを意識する必要がありました。

メガネ先生

まぁ習慣化するまで根気強くじゃな。

メガネ君

運動の様子を思い浮かべながら、力や速度などの向きを確認しますっ!

メガネ先生

うむ、意識して反復じゃな。

メガネ君

教科書の熟読と問題演習を繰り返して、次こそは正解をっ!

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