数と式|一次不等式を扱った応用問題を解いてみよう その3(道のり・速さ・時間)
今回は「一次不等式を扱った応用問題を解いてみよう」のその3です。ここでは、道のり・速さ・時間を題材にして、問題文の読み方や線分図の描き方などを紹介します。
道のり・速さ・時間を題材にした問題は、中学数学はもちろんですが、高校数学でも扱われます。ですから、確実に解けるようにしておきたい問題です。
この記事では不等式を扱いますが、立式までの大まかな流れは方程式とほとんど変わりません。中学数学の方程式の文章問題が苦手な人にも役立つ内容です。ぜひ一読してみて下さい。
道のり・速さ・時間を題材にした一次不等式の問題
さっそく問題です。
問
家から駅までの距離は $1.5 \ \mathrm{km}$ である。最初毎分 $60 \ \mathrm{m}$ で歩き、途中から毎分 $180 \ \mathrm{m}$ で走る。家を出発してから $12$ 分以内で駅に着くためには、最初に歩く距離を何 $\mathrm{m}$ 以内にすればよいか。
文章中から情報を読み取ろう
文章問題では、立式に必要な情報が必ず提示されています。数学の専門用語についての知識が必要なのは、大前提です。その大前提を踏まえて、情報を正しく読み取るためには、文章の読解力が必要です。
読解力がないと、何の話をしているのか分からなかったり、誤読したりするでしょう。このようなことが起きるのは、国語の学力が足りないことが原因かもしれません。
読解力を向上させるには、国語、特に現代文の学習に取り組んだ方が良いでしょう。数学だけに限らず、どの科目でも起きうることなので、現代文の学習にはしっかり取り組んだ方が吉です。
苦手な科目があるのは、その科目だけでなく、他の科目も影響しているかもしれない。
文章の読み方にはコツがあって、これが読解力につながります。数学の場合で言えば、立式することを意識して読むことです。そのためには、たとえば、以下の事柄に注目することが大切です。
問題を読むときに意識したいこと
- 求める数量は何か。
- どんな数量が与えられているか。
- 立式するのは、方程式(等式)なのか不等式なのか。
- 題材に関係する公式や定理はなかったか。
これらを意識しながら文章を読んでいけば、自ずとポイントになる数量や文言が目に入ってきます。
ただ眺めるように読めば良いというわけではない。どの科目、どの問題でも、目的を意識して読むことが大切。
道のり・速さ・時間を扱った文章問題の読み方
問
家から駅までの距離は $1.5 \ \mathrm{km}$ である。最初毎分 $60 \ \mathrm{m}$ で歩き、途中から毎分 $180 \ \mathrm{m}$ で走る。家を出発してから $12$ 分以内で駅に着くためには、最初に歩く距離を何 $\mathrm{m}$ 以内にすればよいか。
1つ1つの文章が短いので、それほど混乱することはないでしょうが、注目する箇所を確認しましょう。
与えられた数量を整理しよう
文章問題に限りませんが、問題では色々な数量が情報として与えられます。ここでは、道のり・速さ・時間を題材にしているので、これらに関する数量が与えられているはずです。
文章を読みながら、与えられた数量を丸や四角で囲みましょう。下線を引くことが多いかもしれませんが、下線よりも目立つのでより効果的です。
また、情報を整理していくとき、求める数量と単位を絶対に確認しましょう。
求める数量は、文章の終わりの方を読めば分かることがほとんどです。問題文では、「最初に歩く距離を何m以内にすればよいか」とあるので、歩く距離をxとおけば良いことが分かります。
また、単位は、速さを参考にして統一します。速さの単位を変換するより、道のりや時間の単位を変換する方が楽だからです。
速さの単位は、毎分60mや毎分180mです。これを参考にすると、道のりの単位をメートル、時間の単位を分に統一します。
与えられた数量を整理します。文章問題が苦手な人については、少し手間が掛かりますが、たとえば、表にまとめると良いでしょう。
道のり・速さ・時間の情報を整理 1⃣
数量が不明のものは、この時点では無理をして埋める必要はありません。ただし、速さの合計は足し算では得られないので、合計の欄に斜線を引いておきましょう。
求めるものは歩く距離なので、歩く距離の欄にxmを追記します。何をxとおくかが決まれば、残りの数量も決まります。
道のり・速さ・時間の情報を整理 2⃣
表にまとめてしまえば、このまま立式することができます。
ここでは表を利用しましたが、線分図を利用して立式するのが一般的です。物理基礎や物理では、線分図を描くので、表よりも線分図に慣れておいた方が良いでしょう。
次は作図の手順を解説します。
道のり・速さ・時間を扱った文章問題の作図
問題を読みながら、与えられた数量を丸や四角で囲んだら、それらをもとに線分図を描きます。
ほとんどの文章問題では、読んだ順に数量を追記していけば、立式に必要な図が自然と完成します。
1番目の文章の作図
1番目の文章
家から駅までの距離は $1.5 \ \mathrm{km}$ である。
1番目の文章から、家から駅までの距離が分かります。適当な長さの線分を引きます。
線分全体の長さが家から駅までの距離に相当します。線分全体を示すように 1.5km=1500mを追記します。
追記する数量が、どの範囲に対応するのかをはっきりさせましょう。また、数字だけでなく、単位も添えて追記しましょう。
単位を添えるのは、異なる単位の数量があれば誤用せずに済むからです。作図は内容の理解を助けるためのものなので、曖昧だと混乱の元になります。
マズい作図の一例を挙げておきます。
マズい作図の場合、数量が書いてあっても、その数量が指し示す対象が曖昧です。
この問題では、区間が複数あるので、特に注意しなければなりません。
作図は、内容を理解するときの助けになるもの。理解の助けにならない作図や、ミスを誘発するような作図は避けよう。
2番目の文章の作図
2番目の文章
最初毎分 $60 \ \mathrm{m}$ で歩き、途中から毎分 $180 \ \mathrm{m}$ で走る。
2番目の文章から、家と駅の間には歩く区間と走る区間があることが分かります。
適当に線分を分割して、歩く区間と走る区間における速さをそれぞれ追記します。
3番目の文章前半の作図
3番目の文章前半
家を出発してから $12$ 分以内で駅に着くためには、
3番目の文章前半から、家を出発してから駅に着くまでの時間が分かります。
線分全体を示すように、「12分以内」の文言を追記します。
3番目の文章後半の作図
3番目の文章後半
最初に歩く距離を何 $\mathrm{m}$ 以内にすればよいか。
3番目の文章後半から、歩く距離が求める数量だと分かります。
歩く距離をxmとして、これを歩く区間に追記します。
残りの作図
このままでは、走る区間の距離、歩く時間、走る時間などの情報がありません。
これらは問題では与えられていない情報であり、自分で入手しなければならない情報です。ここがこの問題のポイントです。
歩く距離xmを用いて追記していきます。
残りの情報を入手する
最初に歩いた距離を $xm$ とすると、走った距離は $(1500-x) \ \mathrm{m}$
毎分 $60 \ \mathrm{m}$ で $x \ \mathrm{m}$ 歩くので、要する時間は $\frac{x}{60}$ 分
毎分 $180 \ \mathrm{m}$ で $(1500-x) \ \mathrm{m}$ 走るので、要する時間は $\frac{1500-x}{180}$ 分
残りの情報を追記すると以下のようになります。
線分図を見て分かるように、上から順に道のり、速さ、時間と並んでいます。
好き勝手に数値を追記していくのではなく、規則性を持たせて追記しましょう。
自分なりにルールを決めて、同じ形式で作図できるようにしておくと良いでしょう。
道のり・速さ・時間を扱った文章問題について、作図のポイントや手順をまとめると以下のようになります。
線分図を描くとき、与えられた情報と自分で導く情報との区別、言い換えると、情報の整理も一緒に進めています。
難しく感じる人がいるかもしれませんが、慣れるまでは、決まった手順を繰り返すことです。飲み込みの良い人が行っている習慣です。
慣れないうちに好き勝手にすると、定着するのに時間が掛かります。自分なりに作図の手順を決めて、繰り返し訓練しましょう。
表や線分図から立式しよう
道のり・速さ・時間を扱った文章問題では、道のりと時間のどちらかについて立式します。速さで立式することはまずありません。
問題では、家から出発して駅に着くために「12分以内で」という条件があるので、不等式で立式します。もし、「12分で」となっていれば、等式で立式します。
歩く区間と走る区間の道のりや速さが異なるので、各区間ごとに要する時間を求めます。これらの時間の和が12分以内であれば良いわけです。
立式すると以下のようになります。
立式する
歩いた時間と走った時間の合計が $12$ 分以内であれば良いので
\begin{align*} &\quad \text{(歩いた時間)} + \text{(走った時間)} \ \leqq 12 \\[ 7pt ] &\text{よって} \\[ 7pt ] &\quad \frac{x}{60} + \frac{1500-x}{180} \leqq 12 \end{align*}「以内」は、以上や以下と同じように、等号のときを含む言葉です。立式できれば、あとは一次不等式の計算問題です。
一次不等式を解こう
不等式は分数を含むので、両辺に180を掛けて分母を払います。移項は分母を払ってからにします。
分母を払ってから移項
12と180の掛け算をしても良いですが、筆算を避けるために、右辺の掛け算を左辺の整理よりも後回しにしました。その結果、両辺を2で割ることができ、左辺を暗算で整理できました。
記述例は以下のようになります。
問題の記述例
ここで扱った問題は、それほど複雑ではなかったので、立式するのは簡単だったと思います。そうは言っても、基本的な手順は、複雑そうな問題であっても変わりません。
異なるとすれば、表現が難しかったり、公式や定理の予備知識が必要だったりすることです。色々なものを題材にした文章問題があるので、コツを掴めたらチャレンジしてみましょう。
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さいごに、もう一度まとめ
- 求める数量を絶対に押さえよう。
- 単位を統一しよう。
- 与えられた数量を丸や四角で囲もう。
- 方程式と不等式のどちらで立式するかを考えよう。
- 線分図を描こう。