数学2
今回は、複数の文字に関する恒等式について学習しましょう。
これまでは、文字がxの1種類でしたが、複数のときもあります。このように複数の文字を含む等式が恒等式であるとき、どのように扱えば良いのかを学習します。
多くの文字があるとき、その対処法を知れば、係数比較法や数値代入法を用いることが可能になります。
複数の文字に関する恒等式
等式が複数の文字に関する恒等式であるとき、どのような関係が成り立つのかを考えます。一般に、以下のようなことが言えます。
複数の文字を含む等式の一例
\begin{align*}
&\text{次の等式} \\[ 5pt ]
&\quad ax^{\scriptsize{2}}+bxy+cy^{\scriptsize{2}}+dx+ey+f = 0 \\[ 7pt ]
&\text{について、$x \ , \ y$ についての恒等式であるとき} \\[ 5pt ]
&\quad a=b=c=d=e=f=0 \\[ 7pt ]
&\text{である。} \\[ 5pt ]
&\text{また、その逆も成り立つ。}
\end{align*}
等式が恒等式であるためには、2つの文字x,yがどんな値でも等式が成り立てば良いので、上記のような関係式が導かれます。
何となく分かりますが、このことが成り立つことをきちんと証明してみましょう。
例の証明
実際には以下のようにして、式が導かれます。
例の証明
\begin{align*}
&\quad ax^{\scriptsize{2}}+bxy+cy^{\scriptsize{2}}+dx+ey+f = 0 \\[ 10pt ]
&\text{等式の左辺を $x$ について整理すると} \\[ 5pt ]
&\quad a \underline{x^{\scriptsize{2}}}+(by+d) \underline{x}+(cy^{\scriptsize{2}}+ey+f) = 0 \\[ 7pt ]
&\text{これが $x$ についての恒等式であるので} \\[ 5pt ]
&\quad a=0 \ , \ b \underline{y}+d=0 \ , \ c \underline{y^{\scriptsize{2}}}+e \underline{y}+f=0 \\[ 7pt ]
&\text{また、これが $y$ についての恒等式であるので} \\[ 5pt ]
&\quad b=d=0 \ , \ c=e=f=0 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad a=b=c=d=e=f=0
\end{align*}
文字が2つあるので、特定の文字に注目して処理していくのがポイントです。文字xに注目し、等式をxについて整理します。等式が恒等式であることから、係数比較法を利用して関係式を導出します。
また、導出された関係式において、文字yに注目し、等式をyについて整理します。等式が恒等式であることから、係数比較法を利用して関係式をさらに導出します。
このような手順で進めていくと、もとの等式の係数や定数項が0であることを証明することができます。
証明では、注目した文字についての恒等式と考えて処理していますが、導かれた式から以下のように考えて良いことが分かります。
両辺の同類項の係数を比較
\begin{align*}
&\quad ax^{\scriptsize{2}}+bxy+cy^{\scriptsize{2}}+dx+ey+f = 0 \\[ 10pt ]
&\text{右辺を変形すると、等式は}
\end{align*}
\begin{align*}
\quad &ax^{\scriptsize{2}}+bxy+cy^{\scriptsize{2}}+dx+ey+f \\[ 7pt ]
= \ &0 \cdot x^{\scriptsize{2}}+0 \cdot xy+0 \cdot y^{\scriptsize{2}}+0 \cdot x+0 \cdot y+0
\end{align*}
\begin{align*}
&\text{と表せる。} \\[ 5pt ]
&\text{両辺の同類項の係数を比較すると} \\[ 5pt ]
&\quad a=b=c=d=e=f=0
\end{align*}
以上のことから、文字が複数あったとしても、両辺の同類項の係数がそれぞれ等しいことを用いて、これまでと同じように解くことができます。
複数の文字に関する恒等式
\begin{align*}
&\quad ax^{\scriptsize{2}}+bxy+cy^{\scriptsize{2}}+dx+ey+f = 0 \\[ 7pt ]
&\text{が $x \ , \ y$ についての恒等式} \\[ 10pt ]
&\Leftrightarrow \ a=b=c=d=e=f=0 \\[ 7pt ]
&\text{を利用する。}
\end{align*}
例題を解いてみよう
次の例題を解いてみましょう。
例題
次の等式が $x \ , \ y$ についての恒等式となるように、定数 $a \ , \ b \ , \ c$ の値を定めよ。
\begin{equation*}
\quad 2x^{\scriptsize{2}}-xy-3y^{\scriptsize{2}}+5x-5y+a = (x+y+b)(2x-3y+c)
\end{equation*}
例題の解答・解説
文字が複数あっても、両辺の同類項の係数を比較すれば良いので、右辺を展開して整理します。
例題の解答例 1⃣
右辺を展開して整理すると
\begin{align*}
\text{(右辺)} &= (x+y+b)(2x-3y+c) \\[ 7pt ]
&= 2x^{\scriptsize{2}}-xy-3y^{\scriptsize{2}}+(2b+c)x+(-3b+c)y+bc
\end{align*}
よって、与式は
\begin{align*}
&2x^{\scriptsize{2}}-xy-3y^{\scriptsize{2}}+5x-5y+a \\[ 7pt ]
&\quad = 2x^{\scriptsize{2}}-xy-3y^{\scriptsize{2}}+(2b+c)x+(-3b+c)y+bc
\end{align*}
両辺の同類項の係数を比較します。
例題の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&2x^{\scriptsize{2}}-xy-3y^{\scriptsize{2}}+5x-5y+a \\[ 7pt ]
&\quad = 2x^{\scriptsize{2}}-xy-3y^{\scriptsize{2}}+(2b+c)x+(-3b+c)y+bc
\end{align*}
この等式が $x \ , \ y$ についての恒等式となるのは、両辺の各項の係数が等しいときであるので
\begin{align*}
\quad \left\{
\begin{array}{l}
2b+c=5 \quad \cdots \text{①} \\
-3b+c=-5 \quad \cdots \text{②} \\
bc=a \quad \cdots \text{③}
\end{array}
\right.
\end{align*}
連立方程式を解きます。
例題の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \left\{
\begin{array}{l}
2b+c=5 \quad \cdots \text{①} \\
-3b+c=-5 \quad \cdots \text{②} \\
bc=a \quad \cdots \text{③}
\end{array}
\right. \\[ 7pt ]
&\text{①,②から} \\[ 5pt ]
&\quad b=2 \ , \ c=1 \\[ 5pt ]
&\text{これを③に代入して} \\[ 5pt ]
&\quad a=2 \\[ 7pt ]
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad a=2 \ , \ b=2 \ , \ c=1
\end{align*}
文字が複数ある場合でも、1つずつ処理する必要はありません。両辺の同類項の係数を比較すれば、定数の値を求めることができます。
ちなみに、例題の設問を言い換えると、「左辺がx,yの1次式の積に因数分解できるように、a,b,cを定めよ」となります。
これは「与えられた2次式が1次式の積に因数分解できる」という条件のついた問題があれば、恒等式の考えを利用できるということを示しています。
次は、複数の文字に関する恒等式を扱った問題を実際に解いてみましょう。