数学2
今回は不等式の証明について学習しましょう。
不等式の証明では、左辺と右辺に大小関係があることを利用して証明します。等式の証明よりも方針が分かりやすいので、コツを掴めば扱いやすいでしょう。
不等式の証明についての考え方やその方法
不等式の証明で扱われる式
不等式は、基本的に左辺と右辺に大小関係のある式です。たとえば、不等式は以下のような式です。
不等式の一例
\begin{align*}
&\quad \frac{a}{1+a} \gt \frac{b}{1+b} \\[ 10pt ]
&\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) \geqq \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} \geqq 3ab
\end{align*}
不等式によっては、大小関係だけでなく、両辺が等しくなる場合もあります。この場合、等号が成り立つ条件を示す必要があります。
厳密には、問題で要求していない限り、必ずしも等号が成り立つ場合について示す必要はない。
証明でよくある間違い
等式や不等式の証明について、勘違いをしている人がいます。
たとえば、等式の証明を例に挙げると、与式(等式)をそのまま用いて証明する人がいます。これは致命的な間違いです。
よくある間違い
\begin{align*}
&\text{問題「$A=B$ であることを証明せよ」} \\[ 5pt ]
&\quad A=B \\[ 7pt ]
&\text{より、(左辺を変形して)} \\[ 5pt ]
&\quad B=B \\[ 7pt ]
&\text{よって、等式は成り立つ。}
\end{align*}
証明するとき、根拠を「A=Bより」としているのが間違いです。
出題者から「与式の等式A=Bが成り立つかどうか分からない。だから実際に調べてほしい」と言われているのです。もとから成り立っている等式を用いるのは、等式の証明にはなりません。
与式の等式は成り立つはずですが、実際に本当かどうかは分かりません。ですから、左辺と右辺が等しい、つまり等式が成り立つことを実際に見せてあげるのです。そういうことから、証明の段階では、左辺と右辺はともに等しいかどうか分からないものとして扱う必要があるのです。
分かりやすい等式の証明を例に挙げましたが、他の証明問題でも基本的なスタンスは同じです。たとえ結論が成り立つとしても、それを実際に示してあげることが大切だということを忘れないようにしましょう。
不等式の基本的な証明のやり方
不等式であれば、与式のような大小関係になるのは確定しています。しかし、証明ではその大小関係が分からないものとして扱います。
実際に計算(または式変形)してみて、与式通りの大小関係があることを示す必要があります。そのために、左辺と右辺に大小関係があることを利用します。
たとえば、不等式A>Bを証明するとします。この不等式では、左辺Aの方が右辺Bよりも大きいことが分かります。ですから、左辺から右辺を引いた差A-Bを求めると、その差は必ず0より大きくなるはずです。
不等式の証明のロジック
(左辺)>(右辺)(証明したい与式)
- 与式から、左辺は右辺よりも大きいはず。
- (左辺)-(右辺)を計算(式変形)すると、(左辺)-(右辺)>0となるはず。
- 左辺と右辺の大小を比べよう。
上述の流れを逆にして、証明では左辺と右辺の大小を比べる。
- (左辺)-(右辺)を計算(式変形)して、その正負を調べると、(左辺)-(右辺)>0
- よって、左辺は右辺よりも大きい。
- したがって、(左辺)>(右辺)
以上のことから、不等式を証明するには、左辺と右辺の大小を比較して、左辺と右辺の差が0より大きい、または0以上となることを実際に示せば良いことが分かります。
不等式の証明(基本)
大小を比較するために、差をつくる
A>B ⇔ A-B>0
証明問題では、結論が予め分かっています。その結論が正しいことを実際に示してあげるのが、証明問題ですべきことです。困ったときは、結論から逆算して考えましょう。
実数の性質、正の数の大小・平方の大小
不等式を証明するには、いくつか知っておきたい事柄があります。
これらを知らないと、上手く証明することができません。
実数の性質
任意の2つの実数については、3つの関係のうち必ずどれか1つの関係だけが成り立ちます。
実数の大小関係
\begin{align*}
&\text{任意の $2$ つの実数 $a \ , \ b$ について} \\[ 5pt ]
&\quad a \gt b \ , \ a=b \ , \ a \lt b \\[ 7pt ]
&\text{のうち、どれか $1$ つの関係だけが成り立つ。}
\end{align*}
3つの大小関係をもとに、様々な大小関係が得られます。
2つの実数は、3つの大小関係のいずれかをもちますが、その大小関係には以下のような基本的な性質があります。
1⃣ 大小関係の基本性質
\begin{align*}
&(1) \quad a \gt b \ , \ b \gt c \ \Rightarrow \ a \gt c \\[ 10pt ]
&(2) \quad a \gt b \ \Rightarrow \ a+c \gt b+c \ , \ a-c \gt b-c \\[ 10pt ]
&(3) \quad a \gt b \ , \ c \gt 0 \ \Rightarrow \ ac \gt bc \ , \ \frac{a}{c} \gt \frac{b}{c} \\[ 10pt ]
&(4) \quad a \gt b \ , \ c \lt 0 \ \Rightarrow \ ac \lt bc \ , \ \frac{a}{c} \lt \frac{b}{c} \\[ 10pt ]
&(5) \quad a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ \Rightarrow \ a+b \gt 0 \ , \ ab \gt 0
\end{align*}
左から右への一方通行です(PならばQは真)。逆(QならばP)が成り立つとは限りません。
次に、大小関係と差の正負については以下のようになります。
2⃣ 大小関係と差の正負
\begin{align*}
&(6) \quad a \gt b \ \Leftrightarrow \ a-b \gt 0 \\[ 10pt ]
&(7) \quad a \lt b \ \Leftrightarrow \ a-b \lt 0
\end{align*}
さいごに、実数の平方です。不等式の証明ではよく用いられる関係です。
3⃣ 実数の平方
\begin{align*}
&(8) \quad a^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\quad \text{等号が成り立つのは} \\[ 5pt ]
&\qquad a=0 \\[ 7pt ]
&\quad \text{のとき} \\[ 10pt ]
&(9) \quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\quad \text{等号が成り立つのは} \\[ 5pt ]
&\qquad a=b=0 \\[ 7pt ]
&\quad \text{のとき}
\end{align*}
正の数の大小・平方の大小
正の数の大小と平方の大小の関係です。平方するものに条件があるので注意しましょう。
4⃣ 正の数の大小と平方の大小
\begin{align*}
&a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ \text{のとき} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}} \gt b^{\scriptsize{2}} \ \Leftrightarrow \ a \gt b \\[ 7pt ]
&\text{また} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}} \geqq b^{\scriptsize{2}} \ \Leftrightarrow \ a \geqq b
\end{align*}
この関係は、主に平方根を含む不等式を証明するときに用いられます。
不等式の証明では、これらの大小関係が成り立つことを利用します。
不等式を証明してみよう
例題から不等式の証明でのポイントを確認してみましょう。
例題
次の不等式を証明せよ。また、$(2) \ , \ (3)$ の等号が成り立つのはどのようなときか。
\begin{align*}
&(1) \quad a \gt b \gt 0 \ \text{のとき} \quad \frac{a}{1+a} \gt \frac{b}{1+b} \\[ 10pt ]
&(2) \quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) \geqq \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&(3) \quad a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} \geqq 3ab
\end{align*}
例題(1)の解答・解説
例題(1)
次の不等式を証明せよ。
\begin{equation*}
\quad a \gt b \gt 0 \ \text{のとき} \quad \frac{a}{1+a} \gt \frac{b}{1+b}
\end{equation*}
与式を見ると、左辺は右辺よりも大きいことが分かります。ですから、(左辺)-(右辺)>0を示せば、不等式を証明することができます。
左辺から右辺を引き算します。差が0よりも大きいことを示せるはずです。
例題(1)の解答例 1⃣
\begin{align*}
\quad &(\text{左辺})-(\text{右辺}) \\[ 7pt ]
= \ &\frac{a}{1+a} – \frac{b}{1+b}
\end{align*}
引き算した式は誰でも書けます。問題は、ここからです。誰が見ても差が0より大きいと言える形を導かなければなりません。
分数式なので通分して1つの分数にまとめます。
例題(1)の解答例 2⃣
\begin{align*}
\quad &\vdots \\[ 7pt ]
\quad &= \frac{a}{1+a} – \frac{b}{1+b} \\[ 10pt ]
&= \frac{a(1+b)}{(1+a)(1+b)} – \frac{b(1+a)}{(1+b)(1+a)} \\[ 10pt ]
&= \frac{a(1+b)-b(1+a)}{(1+a)(1+b)} \\[ 10pt ]
&= \frac{a+ab-b-ab}{(1+a)(1+b)} \\[ 10pt ]
&= \frac{a-b}{(1+a)(1+b)}
\end{align*}
左辺と右辺の差を1つの分数で表すことができました。
この差の正負を、a,bの条件を利用して調べます。
例題(1)の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \frac{a}{1+a} – \frac{b}{1+b} \\[ 10pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \frac{a-b}{(1+a)(1+b)} \\[ 7pt ]
&\text{ここで、$a \gt b \gt 0$ より} \\[ 5pt ]
&\quad a-b \gt 0 \ , \ 1+a \gt 0 \ , \ 1+b \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad \frac{a-b}{(1+a)(1+b)} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{より} \\[ 5pt ]
&\quad \frac{a}{1+a} – \frac{b}{1+b} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad \frac{a}{1+a} \gt \frac{b}{1+b}
\end{align*}
差の正負を調べるとき、与えられた条件を利用します。もちろん、与えられた条件から成り立つ関係を利用しても構いません。
問題で与えられた条件から得られる大小関係
\begin{align*}
&a \gt b \ \text{ならば} \\[ 5pt ]
&\quad a-b \gt b-b \\[ 7pt ]
&\text{より} \\[ 5pt ]
&\quad a-b \gt 0 \\[ 10pt ]
&a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ \text{ならば} \\[ 5pt ]
&\quad a+1 \gt 1 \\[ 7pt ]
&\text{より} \\[ 5pt ]
&\quad a+1 \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{同様にして} \\[ 5pt ]
&\quad b+1 \gt 0 \\[ 10pt ]
&a+1 \gt 0 \ , \ b+1 \gt 0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad (a+1)(b+1) \gt 0
\end{align*}
(1)は、不等式の証明の中では最も基本的な問題です。
例題(2)の解答・解説
例題(2)
次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つのはどのようなときか。
\begin{equation*}
\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) \geqq \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}}
\end{equation*}
基本的な方針は、(2)も(1)と変わりません。
与式を見ると、左辺は右辺と等しいか、右辺よりも大きいことが分かります。ですから、(左辺)-(右辺)≧0を示せば、不等式を証明することができます。
左辺から右辺を引き算します。差が0以上であることを示せるはずです。
例題(2)の解答例 1⃣
\begin{align*}
\quad &(\text{左辺})-(\text{右辺}) \\[ 7pt ]
= \ &\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) – \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
誰が見ても差が0以上であると言える形を導かなければなりません。
差を展開して整理します。
例題(2)の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) – \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\quad = \left(a^{\scriptsize{2}}x^{\scriptsize{2}}+a^{\scriptsize{2}}y^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}}x^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}}y^{\scriptsize{2}} \right) – \left(a^{\scriptsize{2}}x^{\scriptsize{2}}+2abxy+b^{\scriptsize{2}}y^{\scriptsize{2}} \right) \\[ 10pt ]
&\quad = a^{\scriptsize{2}}y^{\scriptsize{2}}-2abxy+b^{\scriptsize{2}}x^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\quad = \left(ay-bx \right)^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
差を累乗の形で表すことができました。
a,b,x,yについての条件は特にありませんが、これらが実数であることをもとに差の正負を調べます。
例題(2)の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) – \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(ay-bx \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\text{ここで、$a \ , \ b \ , \ x \ , \ y$ は実数であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(ay-bx \right)^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) – \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) \geqq \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
実数の性質を利用すると、差が0以上であることが分かります。これで不等式を証明できました。
さいごに、等号が成り立つ条件を調べます。等号が成り立つのは、差が0になるときです。
例題(2)の解答例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(ay-bx \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \left(x^{\scriptsize{2}}+y^{\scriptsize{2}} \right) \geqq \left(ax+by \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\text{また、等号が成り立つのは} \\[ 5pt ]
&\quad \left(ay-bx \right)^{\scriptsize{2}}=0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad ay-bx = 0 \\[ 7pt ]
&\text{のときである。} \\[ 5pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad ay=bx \\[ 5pt ]
&\text{のとき等号が成り立つ。}
\end{align*}
文字の値について条件が何もない場合、ほとんどが実数の平方を利用すると上手くいきます。
条件がなければ実数の平方をつくる
\begin{align*}
&\quad a^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{等号が成り立つのは} \\[ 5pt ]
&\quad a=0 \\[ 7pt ]
&\text{のとき}
\end{align*}
例題(3)の解答・解説
例題(3)
次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つのはどのようなときか。
\begin{equation*}
\quad a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} \geqq 3ab
\end{equation*}
(3)も基本的な方針は(1),(2)と変わらないので、同じ要領で解きます。
与式を見ると、左辺は右辺と等しいか、右辺よりも大きいことが分かります。ですから、(左辺)-(右辺)≧0を示せば、不等式を証明することができます。
左辺から右辺を引き算します。差が0以上であることを示せるはずです。
例題(3)の解答例 1⃣
\begin{align*}
\quad &(\text{左辺})-(\text{右辺}) \\[ 7pt ]
= \ &a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} – 3ab
\end{align*}
誰が見ても差が0以上であると言える形を導かなければなりません。しかし、(2)と異なり、展開することもできません。また、a,bの値に関する条件がありません。
このような場合、実数の平方をつくります。しかし、式全体で因数分解しても、実数の平方を作れません。少し工夫して、実数の平方をいくつか作ります。
例題(3)の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} – 3ab \\[ 10pt ]
&\quad = \underline{a^{\scriptsize{2}} – 3ab}+3b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\quad = \underline{\left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} -\frac{9}{4}b^{\scriptsize{2}} }+3b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\quad = \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} -\frac{9}{4}b^{\scriptsize{2}}+\frac{12}{4}b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\quad = \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
基本的には、実数の平方が複数必要な場合、実数の平方を2つ作るのがほとんどです。
すべての項を用いるのではなく、特定の文字(たとえばa)について2次と1次の項を用いて平方完成します(下線部分を参照)。
ここで注意したいのは、必ず和の形にすることです。差の形では、式の値がつねに0以上になるとは限らないので気を付けましょう。
(実数)2+(実数)2の形をつくる。(実数)2-(実数)2の形はダメ。
差から平方の和を作れたので、その正負を調べます。
例題(3)の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} – 3ab \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\text{ここで、$a \ , \ b$ は実数であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \ , \ \frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{より} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} – 3ab \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} \geqq 3ab
\end{align*}
実数の性質を利用すると、差が0以上であることが分かります。これで不等式を証明できました。
さいごに、等号が成り立つ条件を調べます。等号が成り立つのは、差が0になるときです。
例題(3)の解答例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+3b^{\scriptsize{2}} \geqq 3ab \\[ 7pt ]
&\text{また、等号が成り立つのは} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}}=0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-\frac{3}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} = 0 \ \text{かつ} \ \frac{3}{4}b^{\scriptsize{2}}=0 \\[ 7pt ]
&\text{のときである。} \\[ 5pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad a-\frac{3}{2} b=0 \ \text{かつ} \ b=0 \\[ 7pt ]
&\text{より} \\[ 5pt ]
&\quad a=b=0 \\[ 7pt ]
&\text{のとき等号が成り立つ。}
\end{align*}
実数の平方の和を作るには、平方完成を利用します。式全体で平方を作ろうとしても上手くいかないので気を付けましょう。2次と1次の項を用いて平方完成します。
実数の平方の和は平方完成を利用する
\begin{align*}
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{等号が成り立つのは} \\[ 5pt ]
&\quad a=b=0 \\[ 7pt ]
&\text{のとき}
\end{align*}
3つの例題は、不等式の証明では基本的な問題です。このレベルの問題では、左辺と右辺の差は3パターンのどれかに当てはまります。
左辺と右辺の差は3パターン
- 条件が与えられており、それをもとに差の値を調べる。(整理するだけで変形らしい変形がない)
- 条件がなく、差を因数分解して、実数の平方を作る。(式全体で因数分解できる)
- 条件がなく、いくつかの項で平方完成して、実数の平方の和を作る。(式の一部で平方完成)
次は、不等式の証明を扱った基本的な問題を実際に解いてみましょう。