運用力を鍛える英文法基礎【第10回】
名詞を含む成句動詞の受動態
「他動詞+名詞(句)+前置詞」の句動詞を用いた文で注意したいのは、受動態にするときです。
句動詞を1つの動詞として扱っていることを考えると、句動詞全体の目的語(O)が主語となる受動態がすぐに思いつきます。しかし、これだけではありません。この他にも句動詞中の名詞(句)が主語となる場合があります。
句動詞全体の目的語が受動態の主語になる場合
句動詞全体の目的語(前置詞の目的語とも言う)を文の主語(S)にすると、受動態の文になります。
句動詞全体の目的語が受動態の主語になる場合
「救助艇が生存者たちの目に入った」
【能動態】The survivors caught sight of the lifeboat.
【受動態】The lifeboat was caught sight of by the survivors.
△ Sight was caught of the lifeboat by the survivors.
例文の要素
The survivors / caught sight of / the lifeboat.
生存者たちは / 見つけた / 救助艇を
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):The survivors
- 述語動詞(Vt):caught sight of
- 目的語(O):the lifeboat
The lifeboat / was caught sight of / ( by the survivors ).
救助艇は / 見つけられた /(生存者たちによって)
- S+Vi+(M):第1文型(SV)+(M)
- 主語(S):The lifeboat
- 述語動詞(Vi):caught sight of
- 副詞的修飾句(M):by the survivors
このような受動態の文になるのは、一般に、句動詞全体がまとまりの強いイディオムかどうかで決まるようです。「~を見つける」という意味の句動詞「catch sight of」はまとまりの強いイディオムとされています。ですから、句動詞中の名詞「sight」を取り出して主語にするのは不自然だと捉えられます。
このようなタイプの句動詞の一例は以下の通りです。
- lose sight of(~を見失う)
- make a fool of(~を馬鹿にする)
- make fun of(~を笑いものにする)
- make sense of(~を理解する)
句動詞「make fun of」は動詞「mock」の類義語です。また、句動詞「make sense of」は動詞「understand」の類義語で、一般に疑問文や否定文で用いられます。なお、下線を引いた「make fun of」については後述します。
句動詞中の名詞が受動態の主語になる場合
句動詞中の名詞(他動詞の目的語)を主語(S)にすると、受動態の文になります。
句動詞中の名詞が受動態の主語になる場合
「その例外的な大きさを考慮に入れるべきだ」
【能動態】You should make allowance for its exceptional size.
【受動態】Allowance should be made for its exceptional size.
例文の要素
You / should make allowance for / its exceptional size.
あなたは / 考慮に入れるべきだ / その例外的な大きさを
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):You
- 述語動詞(Vt):should make allowance for
- 目的語(O):its exceptional size
Allowance / should be made / ( for its exceptional size ).
考慮が / なされるべきだ / (その例外的な大きさに向けて)
- S+Vi+(M):第1文型(SV)+(M)
- 主語(S):Allowance
- 述語動詞(Vi):should be made
- 副詞的修飾句(M):for its exceptional size
「make allowance for」は「~を考慮に入れる」という意味の句動詞です。このタイプの句動詞では、話すときに前置詞「for」の前に短いポーズを入れることがあります。ですから、上のタイプと違って、それほどまとまりの強いイディオムではない句動詞です。
つまり、句動詞ではあるけれども「他動詞(Vt)+目的語(O)+前置詞句(前置詞+名詞)」のイメージが残っているタイプです。
このタイプの場合、前置詞「for」の前で区切って、他動詞「make」の目的語「allowance」を主語にした受動態の文をつくるのが一般的です。なお、allowanceにanyやnoなどの修飾語をつけることもできます。
このようなタイプの句動詞の一例は以下の通りです。
- keep an eye on(~を見張る)
- take pride in(~を自慢する)
句動詞全体の目的語と、句動詞中の名詞のどちらも受動態の主語になる場合
受動態の文にするとき、句動詞全体の目的語を主語にしても良いし、句動詞中の名詞を主語にしても良い句動詞もあります。
句動詞全体の目的語と、句動詞中の名詞のどちらも受動態の主語になる場合
「環境の安全に注意が払われなければならない」
【能動態】We must pay attention to the safety of the environment.
【受動態①】The safety of the environment must be paid attention to.
【受動態②】Attention must be paid to the safety of the environment .
例文の要素
We / must pay attention to / the safety ( of the environment ).
私たちは / 注意を払われなければならない /(環境の)安全に
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):We
- 述語動詞(Vt):must pay attention to
- 目的語(O):the safety ( of the environment )
- 形容詞的修飾句:of the environment【the safety を修飾】
The safety ( of the environment ) / must be paid attention to.
(環境の)安全は / 注意を払われなければならない
- S+Vi:第1文型(SV)
- 主語(S):the safety ( of the environment )
- 述語動詞(Vi):must be paid attention to
- 形容詞的修飾句:of the environment【the safety を修飾】
Attention / must be paid / ( to the safety ( of the environment ) ).
注意が / 払われなければならない /((環境の)安全に)
- S+Vi+(M):第1文型(SV)+(M)
- 主語(S):Attention
- 述語動詞(Vi):must be paid
- 副詞的修飾句(M):to the safety ( of the environment )
- 形容詞的修飾句(M):of the environment【the safety を修飾】
どちらの受動態の文にしても大きな問題はありませんが、①は文体上なんとなくぎこちなさを感じます。「注意が払われる」という意味を考えても不自然な文です。主語(S)のカタマリが大きすぎるのも好まれないかもしれません。
一応、どちらの受動態も大丈夫ですが、あえて不自然な方を選ぶことはないでしょう。受動態にするなら、自然な②の受動態にしましょう。
このようなタイプの句動詞の一例は以下の通りです。
- take advantage of(~を利用する)
- take care of(~の世話をする)
- take notice of(~に注意する)
句動詞中の名詞が主語になって受動態の文となる場合、名詞の前に何らかの修飾語がつく場合が多いのが特徴です。辞書で確認することが望ましいですが、大まかな目安にはなるかもしれません。
上で紹介した句動詞「make fun of」の場合、「make much fun of」であれば「much fun is made of」となる受動態も実例があります。また、「take great care of」も「great care is taken of」とされることがあります。
他動詞の自動詞用法
動詞によっては、他動詞(Vt)としても自動詞(Vi)としても用いられるものがあります。自動詞の場合、前置詞を伴って句動詞となれば、他動詞(Vt)と同じ扱いができそうですが、意味に違いが出てきます。
他動詞の自動詞用法
a) He kicked the ball.
(ボールを蹴った)
b) He kicked at the ball.
(ボールを蹴りかかった)【未達成】
例文の要素
a) He / kicked / the ball.
彼は / 蹴った / ボールを
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):He
- 述語動詞(Vt):kicked
- 目的語(O):the ball
b) He / kicked at / the ball.
彼は / 蹴りかかった / ボールを
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):He
- 述語動詞(Vt):kicked at
- 目的語(O):the ball
他動詞(Vt)の場合、「蹴る」という動作が達成された「蹴った」という意味になります。
それに対して「自動詞(vi)+前置詞」の場合、「蹴る」という動作がまだ達成されていない「蹴りかかった」という意味になります。他動詞のときと句動詞のときとで、同じ文型であっても相手に伝わる意味が異なります。
このような達成・未達成の意味の違いが出る他動詞の一例です。
他動詞 | 自動詞用法 |
---|---|
shoot(~を撃つ) | shoot at(~を撃とうとする) |
hit(~を打つ) | hit at(~を打とうとする) |
grab(~をつかむ) | grab at(~をつかむもうとする) |
たとえば、「鳥を狙って撃ったが、弾はわずかに標的を外した」という内容の文を考えてみましょう。動詞「shoot」を用いますが、他動詞と自動詞+前置詞のどちらが適切でしょうか。
動詞「shoot」の使い分け
「鳥を狙って撃ったが、弾はわずかに標的を外した」
a) He shot the bird, but the bullet barely missed the target.
b) He shot at the bird, but the bullet barely missed the target.
例文の要素
a) He / shot / the bird,
彼は / 撃った / 鳥を
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):He
- 述語動詞(Vt):shot
- 目的語(O):the bird
b) He / shot at / the bird,
彼は / 狙って撃った / 鳥を
- S+Vt+O:第3文型(SVO)
- 主語(S):He
- 述語動詞(Vt):shot at
- 目的語(O):the bird
a),b) 共通
[ but ] the bullet / ( barely ) missed / the target.
[ しかし ]、弾は /(わずかに)外した / 標的を
- but+S+Vt+O:but+第3文型(SVO)
- 等位接続詞:but
- 主語(S):the bullet
- 述語動詞(Vt):missed
- 目的語(O):the target
- 副詞的修飾語句:barely【missed を修飾】
a)では、動詞「shoot」が他動詞(Vt)として用いられています。「shoot A」は「Aを撃つ(実際に命中する)」という意味です。日本語訳では、命中していないので矛盾します。
それに対して、b)では、動詞「shoot」が自動詞(Vi)として用いられています。「shoot at A」は「Aを狙って撃つ」という意味で、まだ命中するかどうかは不明です。
このように達成の意味を表す他動詞を、未達成の意味を表す「自動詞+前置詞」の形で用いることを、他動詞の自動詞用法と言います。
予備知識を確認したので、英文の文法的な誤りを訂正してみましょう。
もう英文作成で悩まない!120万例文と用例の「英辞郎 on the WEB Pro」