物理のヒント集|ヒントその8.力・速度・加速度のよくある勘違い(1)
第8回の物理のヒント集は、力・速度・加速度のよくある間違いについてです。物理現象をイメージすることは大切ですが、自分の感覚が必ずしも正しいとは限りません。
特に、今回の例は、よく間違える事柄を挙げています。原理と自分の感覚が一致しているかを確かめておきましょう。
力がつり合うとき物体は静止するって本当?
力・速度・加速度のよくある間違い例(1)
物体に作用する力がつり合えば、物体は静止する。
こんにちは、メガネ君。ちょっと質問して良いかの?
こんにちは、メガネ先生っ!質問して下さるなんて、やっと僕のことを認めて……(T_T)
ある意味認めておるよ。それはさておき、物体に働く力がつり合うと、物体はどうなるんじゃろう?
力がつり合っているので、物体は静止しますっ!(ドヤァ)
ふむ、ふむ、そうじゃったかのぅ。運動の第1法則にそんなこと書いてあったかのぅ。
あっ!僕の解答は間違ってますね。
メガネ君ともあろう者が少しばかり迂闊だったのぅ。
面目ない次第でございます(>_<)
メガネ君らしいと言えばらしいのぅ。
ぐふぅ
力学の基本原理は、ニュートンの運動の法則です。これは3つの法則から成り立っていますが、覚えていますか?
運動の3法則
よくある間違い例(1)に関する法則は、運動の第1法則です。運動の第1法則は慣性の法則とも言われます。
運動の第1法則(慣性の法則)
物体に力が働いていないか、またはいくつかの力が働いていてもその合力が0ならば、はじめ静止していた物体はいつまでも静止を続け、運動している物体ははじめと同じ速度で等速直線運動を続ける。
物体がすでに静止している場合であれば、そのまま静止を続けることはイメージできるでしょう。
ただ、運動していた物体が力の合力が0になったにもかかわらず、静止しないのは何だかイメージできないかもしれません。
物体が運動しているとき、物体は運動の第2法則(運動の法則)に従っています。
運動の第2法則(運動の法則)
物体に力が働くと、力の向きに加速度を生じる。加速の大きさは、力の大きさに比例し、物体の質量に反比例する。
この第2法則を数式化したのが運動方程式です。
運動方程式
ただし
$m$:物体の質量 $\mathrm{[ kg ]}$
$\vec{ a }$:静止している観測者から見た加速度 $\mathrm{[ m/s^{\scriptsize{2}} ]}$
$\vec{ F }$:力の合力 $\mathrm{[ N ]}$
運動方程式を使って考えてみよう
運動方程式を使って考えてみましょう。運動していた物体に働く力がつり合うときを考えます。
運動していた物体に働く力がつり合うとき
力がつり合っているということは、力の合力が0になるということです。このとき、運動方程式から $\vec{ a } = 0$ が得られます。
加速度が0になることが分かりました。ここで注意したいのは、速度が0になるわけではないということです。加速度と速度は別物だからです。
加速度が0になるということは、速度の変化量が0になるということです。 ですから、 加速度が0になってからの速度は、変化せずに一定となります。したがって、加速度が0になったときの速度のままで運動し続けることになります。
速度が一定であることから、等速直線運動を続けるわけです。このように物体が運動していても、速度が一定であれば、物体に働く力はつり合っていると言えます。これらをまとめると以下のようになります。
力のつり合いと物体の速度
- 「物体が静止している」ならば、「物体に働く力はつり合っている」は正しい。
- 「物体に働く力がつり合っている」ならば、「物体は静止している」は必ずしも正しくない。
感覚的に考えてしまい、よく間違いやすいので注意しましょう。
さいごにもう一度
どうじゃ、メガネ君。 思い出したかの?
はいっ! 力がつり合っていれば、物体に力が働いていないのと同じなので、静止するものだと簡単に考えてしまいました。
ちょっと短絡的すぎたのぅ。
よく考えてみると、運動していた物体が静止するためには、余分に運動と逆向きの力が必要ですね。そうなるとつり合っているとは言えなくなります。
うむ、うむ、そうじゃ。
それに、見かけ上、物体に力が働いていないわけですから、物体が急に静止するわけがないですね。車や自転車のブレーキを思い出せば、間違えなかったかもしれません。
うむ、よく理解できてるようじゃ。
最初に思いつかなかったので、まだまだです……。
まぁ、そんなもんじゃ。次回もめげずに自信満々に答えてくれると嬉しいのじゃが。
分かりましたっ!次こそは正解をっ!
物理・物理基礎のオススメ本
- 宇宙一わかりやすい高校物理(力学・波動)
- 宇宙一わかりやすい高校物理(電磁気・熱・原子)
物理入門者や、物理を苦手にしている人に導入書としておすすめです。教科書が学習の中心であるべきですが、どうしても教科書で理解できない箇所が出てきたら本書で補完すると良いでしょう。イラストが豊富なので独学でも使えます。
分冊になっているので、力学と波動以外の分野はもう1冊の方になります。
- 秘伝の物理講義[力学・波動]
- 秘伝の物理講義[電磁気・熱・原子]
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物理教室(河合塾series)
所有していますが、これ1冊で基礎から応用まで十分対応できます。理系志望者は一読してほしいのが本書です。
物理の内容が分野ごとに章立てされており、各分野ごとに筋道を通した理解ができます。網羅性が高いのは当然ですが、「物理的な見方や考え方」が自然に身につくように丁寧に解説されています。
また、入試を意識して問題を多く扱っているのも特徴で、問題集代わりにも使えます。基礎を身に着けたい人は参考書として、応用力を養いたい人は問題集として、実力に応じて使いこなせる構成になっています。
問題集の『物理のエッセンス』は有名ですが、同じ河合塾seriesなので相性も良いです。