数学2
今回は条件式のある恒等式について学習しましょう。
恒等式と言えば、文字にどんな値を代入しても等式が成り立つ式のことです。それにもかかわらず、条件式があります。
少し奇妙な感じがするかもしれませんが、どのような意味なのかを例題や演習をこなしてしっかり理解しましょう。
条件式のある恒等式
条件式のある恒等式を扱った問題には、たとえば以下のようなものがあります。
例題
\begin{equation*}
\quad 2x+y-3z=3 \ , \ 3x+2y-z=2
\end{equation*}
を満たすすべての実数 $x \ , \ y \ , \ z$ に対して
\begin{equation*}
\quad px^{\scriptsize{2}}+qy^{\scriptsize{2}}+rz^{\scriptsize{2}}=12
\end{equation*}
が成立するような定数 $p \ , \ q \ , \ r$ を求めよ。
問題にある、「~を満たすすべての実数」という文言から分かるように、実数の中でも条件式を満たすものだけが対象です。
等式が成り立つのは、条件式を満たす値を代入したときだけです。限定されていますが、その範囲内においては、等式がつねに成り立つ恒等式となるということです。
与式だけで定数p,q,rの値を考えてしまってはいけません。条件式を全く無視して、すべての実数に対して考えているからです。条件式を与式に反映させる必要があります。
条件式のある恒等式を扱ってみよう
それでは、実際に例題を解いてみましょう。
例題
\begin{equation*}
\quad 2x+y-3z=3 \ , \ 3x+2y-z=2
\end{equation*}
を満たすすべての実数 $x \ , \ y \ , \ z$ に対して
\begin{equation*}
\quad px^{\scriptsize{2}}+qy^{\scriptsize{2}}+rz^{\scriptsize{2}}=12
\end{equation*}
が成立するような定数 $p \ , \ q \ , \ r$ を求めよ。
例題の解答・解説
条件式を与式に反映させるために、与式に条件式を代入します。このとき、2つの条件式を上手に用いて、文字の種類が少なくなるように代入します。
例題の解答例 1⃣
\begin{align*}
&\text{条件式について} \\[ 5pt ]
&\quad 2x+y-3z=3 \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ]
&\quad 3x+2y-z=2 \quad \cdots \text{②} \\[ 7pt ]
&\text{とする。} \\[ 5pt ]
&\text{①×2-②から} \\[ 5pt ]
&\quad x-5z=4 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad x=5z+4 \\[ 7pt ]
&\text{②×2-①×3から} \\[ 5pt ]
&\quad y+7z=-5 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad y=-7z-5
\end{align*}
条件式①,②からx,yをzで表すことができました。
これらを与式に代入して、zについての式を導きます。
例題の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad x=5z+4 \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad y=-7z-5 \\[ 7pt ]
&\text{これらを} \\[ 5pt ]
&\quad px^{\scriptsize{2}}+qy^{\scriptsize{2}}+rz^{\scriptsize{2}}=12 \\[ 7pt ]
&\text{に代入すると} \\[ 5pt ]
&\quad p \left(5z+4 \right)^{\scriptsize{2}}+q \left(-7z-5 \right)^{\scriptsize{2}}+rz^{\scriptsize{2}}=12 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad p \left(25z^{\scriptsize{2}}+40z+16 \right)+q \left(49z^{\scriptsize{2}}+70z+25 \right)+rz^{\scriptsize{2}}=12
\end{align*}
文字zの1種類だけで与式を表すことができました。この処理によって、条件式の関係が与式に反映されています。
条件式を代入するとき、文字の種類ができるだけ少なくなるようにしよう。
等式の左辺をzについて整理します。少し複雑かもしれませんが、丁寧に変形しましょう。
例題の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad p \left(25z^{\scriptsize{2}}+40z+16 \right)+q \left(49z^{\scriptsize{2}}+70z+25 \right)+rz^{\scriptsize{2}}=12 \\[ 7pt ]
&\text{左辺を $z$ について整理すると} \\[ 5pt ]
&\quad \left(25p+49q+r \right)z^{\scriptsize{2}}+10 \left(4p+7q \right)z+ \left( 16p+25q \right) = 12
\end{align*}
左辺を整理すると、zについての2次式となります。
ここで、等式はすべての実数zについて恒等式となるはずです。そのためには、両辺の係数や定数項が等しくなる必要があります。
両辺の係数を比較して、定数p,q,rについての方程式を導出します。
例題の解答例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \left(25p+49q+r \right)z^{\scriptsize{2}}+10 \left(4p+7q \right)z+ \left( 16p+25q \right) = 12 \\[ 7pt ]
&\text{この等式が $z$ についての恒等式となるのは、} \\[ 5pt ]
&\text{両辺の同じ次数の項の係数が等しいときで} \\[ 5pt ]
&\text{あるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left\{
\begin{array}{l}
25p+49q+r &=0 &\quad \cdots \text{③} \\
4p+7q &=0 &\quad \cdots \text{④} \\
16p+25q &=12 &\quad \cdots \text{⑤}
\end{array}
\right.
\end{align*}
3つの方程式からなる連立方程式になりました。
計算量が多くなりそうですが、これを解いて定数p,q,rの値を求めます。
例題の解答例 5⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \left\{
\begin{array}{l}
25p+49q+r &=0 &\quad \cdots \text{③} \\
4p+7q &=0 &\quad \cdots \text{④} \\
16p+25q &=12 &\quad \cdots \text{⑤}
\end{array}
\right. \\[ 7pt ]
&\text{④×4-⑤から} \\[ 5pt ]
&\quad 3q=-12 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad q=-4 \\[ 7pt ]
&\text{これらと④から} \\[ 5pt ]
&\quad p=7 \\[ 7pt ]
&\text{さらに③から} \\[ 5pt ]
&\quad 175-196+r=0 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad r=21 \\[ 7pt ]
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad p=7 \ , \ q=-4 \ , \ r=21
\end{align*}
3つの方程式③,④,⑤は1次方程式なので、加減法を利用できます。扱いやすそうな④,⑤式の加減算から、文字を1つずつ減らしながら解きます。
それほど難易度の高いわけではないので、慌てず丁寧に計算しましょう。
条件式の変形について
2つの条件式を用いて、x,yをzで表しました。これによって、文字を1種類に減らすことができました。しかし、どの文字であっても同じ要領で解くことができます。
文字の種類を減らして、1種類に統一するわけですが、このときの目安は分数の係数が出ない式に変形できるかどうかです。
たとえば、文字をxに統一する場合を考えてみましょう。このとき、y,zをxで表さなければなりません。
文字の種類を減らす(xに統一)
\begin{align*}
&\text{条件式について} \\[ 5pt ]
&\quad 2x+y-3z=3 \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ]
&\quad 3x+2y-z=2 \quad \cdots \text{②} \\[ 7pt ]
&\text{とする。} \\[ 5pt ]
&\text{①×2-②から} \\[ 5pt ]
&\quad x-5z=4 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad z=\frac{1}{5}x-\frac{4}{5} \\[ 7pt ]
&\text{②×3-①から} \\[ 5pt ]
&\quad 7x+5y=3 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad y=-\frac{7}{5}x+\frac{3}{5}
\end{align*}
y,zをxで表す場合、係数が分数の式になってしまいます。これらを与式に代入すると、その後に展開をしなければなりません。展開すると、係数が分数となる項が増えてしまいます。
さらにこの後には、xについて整理しなければなりません。かなり面倒な式変形になりそうだと予想できます。
次は、条件式のある恒等式を扱った問題を実際に解いてみましょう。