数学2
分数式の恒等式を扱った問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
問
\begin{align*}
&\text{次の等式が $x$ についての恒等式となるように、} \\[ 5pt ]
&\text{定数 $a \ , \ b \ , \ c$ の値を定めよ。} \\[ 7pt ]
&(1) \quad \frac{3x-1}{x^{\scriptsize{2}}-1} = \frac{a}{x-1} + \frac{b}{x+1} \\[ 10pt ]
&(2) \quad \frac{x-5}{(x+1)^{\scriptsize{2}}(x-1)} = \frac{a}{(x+1)^{\scriptsize{2}}} + \frac{b}{x+1} + \frac{c}{x-1}
\end{align*}
余裕があれば、係数比較法と数値代入法の両方を用いて解いてみましょう。
問(1)の解答・解説
問(1)
\begin{align*}
&\text{次の等式が $x$ についての恒等式となるように、} \\[ 5pt ]
&\text{定数 $a \ , \ b \ , \ c$ の値を定めよ。} \\[ 7pt ]
&\quad \frac{3x-1}{x^{\scriptsize{2}}-1} = \frac{a}{x-1} + \frac{b}{x+1}
\end{align*}
与式は分数式を含むので、分母を払って整式の等式に変形します。左辺の分母にある2次式を両辺に掛けます。
問(1)の解答例 1⃣
\begin{align*}
&\quad \frac{3x-1}{x^{\scriptsize{2}}-1} = \frac{a}{x-1} + \frac{b}{x+1} \\[ 7pt ]
&\text{両辺に $x^{\scriptsize{2}}-1$ を掛けて} \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = a(x+1)+b(x-1) \quad \cdots \text{①}
\end{align*}
分数式から整式へ変形できました。これ以降は、係数比較法と数値代入法のどちらかを選んで解きます。
係数比較法を用いた解答例
係数比較法を用いるために、①式の右辺を整理します。
問(1)の解答例(係数比較法) 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = a(x+1)+b(x-1) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\text{①の右辺を整理すると} \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = (a+b)x+(a-b)
\end{align*}
両辺を見比べて、同じ次数の項の係数を比較します。両辺ともに1次式なので、1次の項の係数どうし、定数項どうしをそれぞれ比較します。
問(1)の解答例(係数比較法) 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = (a+b)x+(a-b) \\[ 5pt ]
&\text{両辺の同じ次数の項の係数を比較すると、} \\[ 5pt ]
&\quad \begin{cases} 3&=a+b &\quad \cdots \text{②} \\ -1&=a-b &\quad \cdots \text{③} \end{cases}
\end{align*}
定数a,bについての1次式を2つ得ることができました。ともに成り立つ必要があるので、連立方程式とします。
連立方程式を解きます。
問(1)の解答例(係数比較法) 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad \begin{cases} 3&=a+b &\quad \cdots \text{②} \\ -1&=a-b &\quad \cdots \text{③} \end{cases} \\[ 5pt ]
&\text{②+③より} \\[ 5pt ]
&\quad 2=2a \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=1 \\[ 5pt ]
&\text{これと②より} \\[ 5pt ]
&\quad 3=1+b \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad a=1 \ , \ b=2
\end{align*}
連立方程式と言っても、1次式なので扱いに困るほどではありません。
数値代入法を用いた解答例
分数式の分母を払って、整式の等式に変形するところまでは、係数比較法と変わりません。解答例1⃣からの続きとなります。
右辺の各項が因数分解されていることに注目して、①式に適切な数値を代入します。
問(1)の解答例(数値代入法) 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = a(x+1)+b(x-1) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\text{①が $x$ についての恒等式であれば} \\[ 5pt ]
&\text{$x=1$ を代入して} \\[ 5pt ]
&\quad 2=2a \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=1 \\[ 5pt ]
&\text{$x=-1$ を代入して} \\[ 5pt ]
&\quad -4=-2b \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=2
\end{align*}
定数a,bの値を求めたら、その値を右辺に代入します。そして、①式が恒等式であることを実際に確かめます。
問(1)の解答例(数値代入法) 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = a(x+1)+b(x-1) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=1 \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ]
&\text{逆に、このとき①の右辺は} \\[ 5pt ]
&\quad 1 \cdot (x+1) + 2(x-1) = 3x-1 \\[ 5pt ]
&\text{となり、左辺と一致するので、①は恒等式となる。} \\[ 5pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad a=1 \ , \ b=2
\end{align*}
「逆に」以下についての別解です。数値代入法による解答例3⃣を以下のように記述しても構いません。
問(1)の別解例(数値代入法)
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad 3x-1 = a(x+1)+b(x-1) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=1 \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ]
&\text{このとき、等式の両辺は $1$ 次以下の整式であり、} \\[ 5pt ]
&\text{異なる $2$ 個の $x$ の値に対して等式が成り立つ。} \\[ 5pt ]
&\text{よって、この等式は恒等式である。} \\[ 5pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad a=1 \ , \ b=2
\end{align*}
問(2)の解答・解説
問(2)
\begin{align*}
&\text{次の等式が $x$ についての恒等式となるように、} \\[ 5pt ]
&\text{定数 $a \ , \ b \ , \ c$ の値を定めよ。} \\[ 7pt ]
&\quad \frac{x-5}{(x+1)^{\scriptsize{2}}(x-1)} = \frac{a}{(x+1)^{\scriptsize{2}}} + \frac{b}{x+1} + \frac{c}{x-1}
\end{align*}
問(2)も同じ要領で解きます。与式は分数式を含むので、分母を払って整式の等式に変形します。左辺の分母にある3次式を両辺に掛けます。
問(2)の解答例 1⃣
\begin{align*}
&\quad \frac{x-5}{(x+1)^{\scriptsize{2}}(x-1)} = \frac{a}{(x+1)^{\scriptsize{2}}} + \frac{b}{x+1} + \frac{c}{x-1} \\[ 7pt ]
&\text{両辺に $(x+1)^{\scriptsize{2}}(x-1)$ を掛けて} \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = a(x-1)+b(x+1)(x-1)+c(x+1)^{\scriptsize{2}} \quad \cdots \text{①}
\end{align*}
係数比較法を用いた解答例
係数比較法を用いるために、①式の右辺を整理します。
問(2)の解答例(係数比較法) 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = a(x-1)+b(x+1)(x-1)+c(x+1)^{\scriptsize{2}} \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\text{①の右辺を整理すると} \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = (b+c)x^{\scriptsize{2}}+(a+2c)x+(-a-b+c)
\end{align*}
右辺を整理するとき、次数ごとに整理していけば、暗算でできます。
展開して整理するときのコツ
\begin{align*}
&\quad a(x-1)+b(x+1)(x-1)+c(x+1)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\text{$2$ 次の項ができるのは $2$ 番目と $3$ 番目の項。} \\[ 5pt ]
&\text{$2$ 番目の項において、$2$ 次の項の係数は $b$} \\[ 5pt ]
&\text{$3$ 番目の項において、$2$ 次の項の係数は $c$} \\[ 5pt ]
&\text{よって、展開後の $2$ 次の項は} \\[ 5pt ]
&\quad (b+c)x^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&\text{$1$ 次の項ができるのは $1$ 番目と $3$ 番目の項。} \\[ 5pt ]
&\text{$1$ 番目の項において、$1$ 次の項の係数は $a$} \\[ 5pt ]
&\text{$3$ 番目の項において、$1$ 次の項の係数は $2c$} \\[ 5pt ]
&\text{よって、展開後の $1$ 次の項は} \\[ 5pt ]
&\quad (a+2c)x \\[ 10pt ]
&\text{定数項ができるのは すべての項。} \\[ 5pt ]
&\text{$1$ 番目の項において、定数項は $-a$} \\[ 5pt ]
&\text{$2$ 番目の項において、定数項は $-b$} \\[ 5pt ]
&\text{$3$ 番目の項において、定数項は $c$} \\[ 5pt ]
&\text{よって、展開後の定数項は} \\[ 5pt ]
&\quad (-a-b+c) \\[ 10pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = (b+c)x^{\scriptsize{2}}+(a+2c)x+(-a-b+c)
\end{align*}
難しいようであれば、無理をせず素直に展開して同類項を整理しましょう。
右辺の整理ができたら、両辺を見比べて、同じ次数の項の係数を比較します。左辺は1次式ですが、右辺が2次式であることに注意しましょう。
問(2)の解答例(係数比較法) 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = (b+c)x^{\scriptsize{2}}+(a+2c)x+(-a-b+c) \\[ 5pt ]
&\text{両辺の同じ次数の項の係数を比較すると、} \\[ 5pt ]
&\quad \begin{cases} 0&=b+c &\quad \cdots \text{②} \\ 1&=a+2c &\quad \cdots \text{③} \\ -5&=-a-b+c &\quad \cdots \text{④} \end{cases}
\end{align*}
左辺に2次の項がないことから、右辺の2次の項の係数は0です。
定数a,b,cについての1次式を3つ得ることができました。ともに成り立つ必要があるので、連立方程式とします。連立方程式を解きます。
問(2)の解答例(係数比較法) 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad \begin{cases} 0&=b+c &\quad \cdots \text{②} \\ 1&=a+2c &\quad \cdots \text{③} \\ -5&=-a-b+c &\quad \cdots \text{④} \end{cases} \\[ 5pt ]
&\text{②+③+④より} \\[ 5pt ]
&\quad -4=4c \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ c=-1 \\[ 5pt ]
&\text{これと②,③より} \\[ 5pt ]
&\quad 0=b-1 \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=1 \\[ 5pt ]
&\quad 1=a-2 \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad a=3 \ , \ b=1 \ , \ c=-1
\end{align*}
少し面倒な計算になりましたが、上手に連立方程式を解きましょう。
数値代入法を用いた解答例
解答例1⃣からの続きとなります。問(1)と同じように、右辺の各項が因数分解されていることに注目して、①式に適切な数値を代入します。
問(2)の解答例(数値代入法) 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = a(x-1)+b(x+1)(x-1)+c(x+1)^{\scriptsize{2}} \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\text{①が $x$ についての恒等式であれば} \\[ 5pt ]
&\text{$x=1$ を代入して} \\[ 5pt ]
&\quad -4=4c \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ c=-1 \\[ 5pt ]
&\text{$x=-1$ を代入して} \\[ 5pt ]
&\quad -6=-2a \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ]
&\text{$x=0$ を代入して} \\[ 5pt ]
&\quad -5=-a-b+c \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=1
\end{align*}
定数a,b,cの値を求めたら、その値を右辺に代入します。そして、①式が恒等式であることを実際に確かめます。
問(2)の解答例(数値代入法) 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = a(x-1)+b(x+1)(x-1)+c(x+1)^{\scriptsize{2}} \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ c=-1 \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=1 \\[ 5pt ]
&\text{逆に、このとき①の右辺は} \\[ 5pt ]
&\qquad 3(x-1)+1 \cdot (x+1)(x-1)+(-1) \cdot (x+1)^{\scriptsize{2}} \\[ 5pt ]
&\quad = 3x-3+x^{\scriptsize{2}}-1-(x^{\scriptsize{2}}+2x+1) \\[ 5pt ]
&\quad = x-5 \\[ 5pt ]
&\text{となり、左辺と一致するので、①は恒等式となる。} \\[ 5pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad a=3 \ , \ b=1 \ , \ c=-1
\end{align*}
「逆に」以下についての別解です。数値代入法による解答例3⃣を以下のように記述しても構いません。
問(2)の別解例(数値代入法)
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\quad x-5 = a(x-1)+b(x+1)(x-1)+c(x+1)^{\scriptsize{2}} \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ c=-1 \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ]
&\quad \vdots \\[ 5pt ]
&\ \therefore \ b=1 \\[ 5pt ]
&\text{このとき、等式の両辺は $2$ 次以下の整式であり、} \\[ 5pt ]
&\text{異なる $3$ 個の $x$ の値に対して等式が成り立つ。} \\[ 5pt ]
&\text{よって、この等式は恒等式である。} \\[ 5pt ]
&\text{したがって、} \\[ 5pt ]
&\quad a=3 \ , \ b=1 \ , \ c=-1
\end{align*}
分数式の分母を払って、整式の等式に変形することが基本方針です。分数式のままで解くとすれば、部分分数に分解するときです。この解法であれば、計算らしい計算がなく取り組みやすいでしょう。
部分分数に分解する解法を利用するとすれば、問(1)の方でしょう。問(2)の分数式を部分分数に分解するのは、少し面倒です。問(1)は例題レベルなので、意外と簡単に分解できます。
どの解法を選ぶにしても、与式をよく観察して方針を決めることが大切です。
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さいごにもう一度まとめ
- 等式に分数式を含む場合、分母を払って整式の等式に変形しよう。
- 分数式から整式に変形したら、係数比較法か数値代入法を用いて解こう。
- 分数式を部分分数に分解できれば、分数式のままで解いても良い。