物理のヒント集|ヒントその4.流水を進む船の速度
第4回の物理のヒント集は、流水を進む船の速度についてです。速度は向きと大きさをもつベクトル量なので、特に向きに注意しないと大変なことになります。
流水を進む船の速度
速度の合成を扱った問題に、流水を進む船の速度を求める問題があります。問題文をしっかり読み、意図を正しく理解しないと、見当外れな数値が出てきてしまいます。
【問】静水上を速さ10[m/s] で進むことのできる船が、流れの速さ6[m/s] 、川幅100[m] の川を横断する。船が岸に対して直角に進むとき、岸に対する船の速さを求めよ。
メガネ君、解けるかのぅ?
船が岸に対して直角に10[m/s] で進むと、それと同時に川の流れによって下流に6[ m/s] で流されてしまいます。
ですから、求める船の速さは、2辺10,6をもつ直角三角形の斜辺の長さを求めれば良いので、$2 \sqrt{34} \ \mathrm{[m/s]}$ となりますっ!(ドヤァ)
頑張って答えてくれたようじゃの。じゃが残念ながら間違いじゃっ!
何ですとっ!
自分の解答に自信満々だったメガネ君。しかし、あっけなく撃沈。さて、どこが間違っているのでしょうか。
問題文の解釈に気を付けよう
メガネ君は「船が岸に対して直角に10[m/s] で進む」と話していましたが、果たしてそうでしょうか?
もう一度、問題文を確認してみましょう。
【問】静水上を速さ10[m/s] で進むことのできる船が、流れの速さ6[m/s] 、川幅100[m] の川を横断する。船が岸に対して直角に進むとき、岸に対する船の速さを求めよ。
問題文では「船が岸に対して直角に進むとき」と言っています。ここの解釈の仕方によって明暗が分かれてしまいます。
「船が岸に対して直角に進むとき」とは、船が岸に対して直角に船首を向けて進むときではありません。船首は岸に対して直角でも、船が斜めに流されていれば、岸に対して直角に進むとは言えません。
岸に対して直角に進もうとしても、実際はそうならない
メガネ君が考えた進み方の場合、図のように、船首が岸に対して直角に進もうとしても、船は下流の方に流れてしまいます。
このときの船の進路は、図のように斜めになるので、船が岸に対して直角に進むことはありません。
流水の影響を踏まえて、船が岸に対して直角に進むときを考えなければなりません。そのためには、上流の方に船を進めなければなりません。
上流の方に船を進めたとしても、それと同時に流水の影響で下流に流されてしまいます。この結果、実際は上流の方に進まずに、岸に対して直角に進んでいくことができます。
問題文の意図を正しく読み取ろう。
正しく作図しよう
メガネ君の作図では上手くいかないので、作図しなおしてみましょう。
船が実際に進む速さは、静水時の船の速さと流水の速さとを合成したあとの速さになります。ベクトルの合成を思い出しましょう。
船の進む向きが岸に対して直角となるには、静水時の船の速さと流水の速さが平行四辺形の一辺になるように作図します。このとき、10,6がそれぞれ平行四辺形の辺になります。また、2辺の長さの比は、10:6=5:3です。
正しい作図では、斜辺が10、他の一辺が6の直角三角形ができます。残りの一辺が求める船の速さに相当します。
解答例
三平方の定理を利用して解くと、求める速さは8[m/s] となります。
なお、平行四辺形の2辺の比が5:3であったので、3:4:5の直角三角形を利用して解くこともできます。
さいごにもう一度
どこで間違ったか気付いたかの?
はいっ! ケアレスミスですが、問題の意図を正しく理解できていませんでした。勝手な思い込みに注意したいですっ!
たしかにケアレスミスじゃが、こういうことはどの問題でも起こりうるんじゃ。
そうならないためには、問題文をただ眺めるのではなくて、読み解いていく訓練をしてほしいの。
あとは用語の定義を文言通り覚え、正しく解釈することが大切じゃ。定義をいい加減に覚えたり、解釈したりすると、問題の意図を読み違えやすくなるんじゃよ。
そうですね。まずは用語の定義を正しく覚えないといけませんね。うろ覚えになっているものが多いので、もう一度確認しますっ!
ちなみに、問題では「速度」ではなく「速さ」が使われていたようじゃが、ちゃんと違いが分かっておるかの?
速さは大きさだけのスカラー量で、速度は向きと大きさをもつベクトル量でした。次こそは間違えませんよっ!
失敗から学べば良いんじゃよ。次回も楽しみにしとるよ。
物理・物理基礎のオススメ本
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物理の内容が分野ごとに章立てされており、各分野ごとに筋道を通した理解ができます。網羅性が高いのは当然ですが、「物理的な見方や考え方」が自然に身につくように丁寧に解説されています。
また、入試を意識して問題を多く扱っているのも特徴で、問題集代わりにも使えます。基礎を身に着けたい人は参考書として、応用力を養いたい人は問題集として、実力に応じて使いこなせる構成になっています。
問題集の『物理のエッセンス』は有名ですが、同じ河合塾seriesなので相性も良いです。