物理のヒント集|ヒントその7.摩擦力にも色々あるんだよ
第7回の物理のヒント集は、物体に働く摩擦力についてです。摩擦力なんて公式があるから簡単だと思っていませんか?
確かに、公式は簡単で覚えやすいです。しかし、摩擦力と言っても種類があり、その中には公式で求めることのできない摩擦力もあります。「公式覚えたから大丈夫」なんて思っていませんか?
公式を覚えたら大丈夫だと誰が言った?
こんにちは、メガネ君。ちょっと質問して良いかの?
こんにちは、メガネ先生っ! 質問して下さるなんて、やっと僕のことを認めて……(T_T)
ある意味認めておるよ。それはさておき、摩擦力のことじゃよ。
摩擦力がどうしたんですかっ!
摩擦力の求め方を思い出せなくてのぅ。最近、物忘れが酷くて、ちと忘れてしまったんじゃ。
摩擦力なんてμNという公式を使えば簡単に求めることができますよっ!
ほほぅ?
μは摩擦係数で、Nは垂直抗力です。ただし、摩擦係数は、物体が静止しているときと動いているときで変わりますっ!
なるほど、実に惜しいのぅ。それじゃと摩擦係数なしでは求めることはできないじゃろ?
えっ、そんなときがあるんですか?
あるぞぃ。たとえば「あらい水平な床に置かれた物体が、水平方向に 10Nの力を受けて静止しているとき、摩擦力を求めよ」なんて問題がそうじゃ。どうじゃ、メガネ君?
摩擦係数はいくらですか?
そんなものはないぞい。
何ですとっ! 僕の解釈では求めることができない?
公式を覚えても安心してはいかんということじゃな。
ぐふぅ
摩擦力はいくつかの種類に分類されています。物体の状態に応じてそれらを使い分けなければなりません。摩擦力は公式だけで求める力ではありません。
摩擦力の種類
摩擦力とは、互いに接触した面の間に、面が滑るのを妨げるように働く力のことです。このような摩擦力は、主に2つの種類に分類されます。
摩擦力の種類
- 静止摩擦力:物体が静止しているときに受ける摩擦力
- 動摩擦力 :物体が運動しているときに受ける摩擦力
静止摩擦力も動摩擦力も初めから大きさや向きが決まっているわけではなく、物体に働く外力に応じて決まります。そういう意味で摩擦力は「受け身の力」と捉えると理解しやすいかもしれません。
- 物理の基本事項を総点検するなら 物理の要点
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摩擦力を表す式
摩擦力は外力に応じて決まるのですが、それらの関係を厳密に表す式は残念ながらありません。しかし、床の粗さに対する外力や摩擦力など、各種の実験結果から得られた近似式ならあります。
実は、摩擦力を求めるために使う公式は、経験から得られた近似式だったというわけです。近似式ではありますが、公式なのでもちろん使って構いません。
物体の状態と摩擦力の関係
摩擦力を求める場合、公式を使うときと使わないときがあります。それは物体の置かれた状態によって決まります。ですから、物体の状態をきちんと把握することが大切です。
物体の置かれた状態
- 物体が静止しているとき
- 物体が動き出す直前
- 物体が動いているとき
上記のように、物体の様子は3つに分類されるので、どれに相当するのかを吟味しましょう。
物体が静止しているときの摩擦力
物体が静止しているとき、物体に働く摩擦力は静止摩擦力です。このときの静止摩擦力の大きさは、外力によって変わります。
静止摩擦力はいつでも同じ大きさか?
たとえば、あらい水平な床に置かれた箱を押すときをイメージしてみましょう。
力持ちのAさんと、Aさんよりも非力なBさんの2人がいます。2人がそれぞれ箱を押してみましたが、箱は全く動きませんでした。このとき、箱を押す力はAさんとBさんで同じでしょうか?
Aさんの方がBさんよりも力持ちなので、押す力はAさんの方が大きいはずです。それにも関わらず、箱が動かないのは、押す力と静止摩擦力がつり合っているからです。
- (Bさんの押す力)<(Aさんの押す力)
- 2人の押す力がともに静止摩擦力とつり合うので、箱は動かない。
⇒ それでは、それぞれの静止摩擦力の大小関係は?
以上の考察から、2人の押す力に見合った静止摩擦力が生じていると考えられます。
したがって、Aさんのときの静止摩擦力は、Bさんのときよりも大きくなることが分かります。このように静止摩擦力は外力に応じて大きさが変わるということをまず理解しましょう。
摩擦力と垂直抗力との関係
次に、垂直抗力との関係ですが、垂直抗力は、鉛直方向のつり合いから物体の重力に等しいことが分かります。
鉛直方向のつり合い
ただし
$N$:垂直抗力 $\mathrm{[ N ]}$
$m$:物体の質量 $\mathrm{[ kg ]}$
$g$:重力加速度 $\mathrm{[ m/s^{\scriptsize{2}} ]}$
物体の質量と重力加速度はともに定数なので、垂直抗力も定数となります。そうなると、外力に応じて変化する静止摩擦力を、μNの式で求めるのはおかしいことが理解できるはずです(摩擦係数μは、床のあらさによって決まる定数)。
以上のことから、あらい水平な床にある物体が静止しているとき、静止摩擦力は外力に応じてその大きさを変える力なので、一定ではありません。ですから、公式を使って静止摩擦力を求めることはしません。
では、どうするのかと言うと、公式を使うのではなく、力のつり合いから求めます。外力が1つだけではないときもあります。そんなときは、外力の合力でつり合いを考えましょう。
物体が動き出す直前の摩擦力
あらい水平な床にある物体でも、外力を徐々に大きくしていくと、ついには動き出します。
物体が動き出す直前、あるいは物体がまさに滑り出そうとしているような限界の状態のとき、静止摩擦力は最大値をとります。このときの静止摩擦力のことを、最大摩擦力または最大静止摩擦力と言います。
一般に、最大静止摩擦力は以下のような式で表されます。ただし、この式は実験結果から得られた経験則です。
最大静止摩擦力(最大摩擦力)
ただし
$f_{0}$:最大静止摩擦力 $\mathrm{[ N ]}$
$\mu$:静止摩擦係数
$N$:垂直抗力 $\mathrm{[ N ]}$
上の式が使えるのは、物体が動き出す直前の、静止摩擦力の最大値、つまり最大静止摩擦力のときだけです。
静止摩擦力の求め方
- 最大値である最大静止摩擦力のときだけ公式で求める。
- それ以外の静止摩擦力はつり合いの関係から求める。
また、静止摩擦力と最大静止摩擦力との大小関係は以下の通りです。
静止摩擦力 $f$ と最大静止摩擦力 $f_{0}$ の大きさの関係
物体が動いているときの摩擦力
あらい水平な床にある物体が静止しているとします。この物体はいったん動き出すと、慣性の法則によりそのまま動き続けようとします。そのまま外力が与えられれば動き続け、外力がなくなればいずれ停止します。
物体は動いていますが、このときでも摩擦力は物体の運動を妨げるために働いています。このときの摩擦力を動摩擦力と言います。
一般に、動摩擦力は以下のような式で表されます。
動摩擦力
ただし
$f’$:動摩擦力 $\mathrm{[ N ]}$
$\mu’$:動摩擦係数
$N$:垂直抗力 $\mathrm{[ N ]}$
この式も実験結果から得られた経験則で、物体の速度が極端に大きくなったり、小さくなったりしなければ、速度に関わらずこの式で得られる値となることが分かっています。
このことから、動摩擦力は、静止摩擦力と異なり、物体に与えられる外力が変化しても常に一定値になります。
ちなみに、この動摩擦力は、最大静止摩擦力よりも小さくなります。つまり、物体が動き出す直前が、最も大きな外力を必要とするということです。このことは何となくイメージが湧くのではないでしょうか。
外力と摩擦力の関係を整理しよう
摩擦力の種類やその大きさの求め方が分かったので、これらを整理しておきましょう。
一般に、外力と摩擦力の関係をグラフで表すと以下のようになります。
3種類の摩擦力について、大きさの大小関係をイメージできるのではないかと思います。また、一覧表にまとめると以下のようになります。
摩擦力の種類 | 物体の状態 | 求め方とその大きさ |
---|---|---|
静止摩擦力 | 物体が静止している | 力のつり合いで求める。$f=F$ |
最大(静止)摩擦力 | 物体が動き出す直前 | $\mu$ と $N$ で決まる一定値。$f_{0} = \mu N$ |
動摩擦力 | 物体が動いている | $\mu’$ と $N$ で決まる一定値。$f’ = \mu’ N$ |
摩擦力を学習したての頃、静止摩擦力と動摩擦力を対比させて公式を覚えるのは良いのですが、中途半端に覚えがちです。
力学の初歩ではありますが、この辺りで躓いてしまうと、力学に対して苦手意識が芽生えてしまいます。そうならないためにも、教科書を熟読し、正確に覚えましょう。
さいごにもう一度
ワシも思い出したぞい。メガネ君はどうじゃ?
はいっ!摩擦力って、公式を覚えておけば簡単だと侮っていました。
そうじゃな。物理現象を理解するのが物理学習の目的じゃから、イメージするかどうかで差がつくんじゃ。
そうですね。公式を覚えることが目的になってはいけませんね。イメージを膨らませることが大切ですねっ!
いつも前向きなメガネ君は素晴らしいのぅ。次回も楽しみじゃ。
次こそは正解をっ!
物理・物理基礎のオススメ本
- 宇宙一わかりやすい高校物理(力学・波動)
- 宇宙一わかりやすい高校物理(電磁気・熱・原子)
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分冊になっているので、力学と波動以外の分野はもう1冊の方になります。
- 秘伝の物理講義[力学・波動]
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物理教室(河合塾series)
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