数学2
式の大小比較を扱った問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
例題の解答例 5⃣
\begin{align*}
&\text{$2$ つの正の数 $a \ , \ b$ が} \\[ 5pt ]
&\quad a+b=1 \\[ 7pt ]
&\text{を満たすとき、次の式の大小を比較せよ。} \\[ 5pt ]
&\quad a+b \ , \quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \ , \quad ab \ , \quad \sqrt{a} + \sqrt{b}
\end{align*}
問の解答・解説
与えられた条件を満たす数を代入して、式の大小関係を予想します。
式の大小関係を予想する
\begin{align*}
&\quad a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ , \ a+b=1 \\[ 7pt ]
&\text{より} \\[ 5pt ]
&\quad a = \frac{1}{2} \ , \ b = \frac{1}{2} \\[ 7pt ]
&\text{を式に代入すると} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} = \frac{1}{2} \\[ 7pt ]
&\quad ab = \frac{1}{4} \\[ 7pt ]
&\quad \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{2} \\[ 7pt ]
&\text{となるので、式の大小関係は} \\[ 5pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b} \\[ 7pt ]
&\text{と予想できる。}
\end{align*}
式の大小関係を予想することができました。これ以降を答案に記述していきます。
大小を比較する前に、与えられた条件を利用して、文字を2種類から1種類に減らします。この作業によって、差の符号(正負)を調べやすくなります。
問の解答例 1⃣
\begin{align*}
&\quad a+b=1 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad b = 1-a \\[ 7pt ]
&\text{よって}
\end{align*}
\begin{align*}
\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} &= a^{\scriptsize{2}}+ \left(1-a \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&= 2a^{\scriptsize{2}}-2a+1
\end{align*}
\begin{align*}
\quad ab &= a \left(1-a \right) \\[ 10pt ]
&= -a^{\scriptsize{2}}+a
\end{align*}
\begin{equation*}
\quad \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{a} + \sqrt{1-a}
\end{equation*}
bを消去すると、aが残ります。
与えられた条件を利用して、aの値の範囲を求めます。
問の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\text{また、$b \gt 0$ より} \\[ 5pt ]
&\quad 1-a \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad a \lt 1 \\[ 7pt ]
&\text{これと $a \gt 0$ より} \\[ 5pt ]
&\quad 0 \lt a \lt 1
\end{align*}
これで、差の符号(正負)を調べる準備が整いました。
予想した大小関係から差を作ります。最小のものと2番目に小さいものを比較します。
問の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad 0 \lt a \lt 1 \\[ 10pt ]
&[ \ 1 \ ] \quad ab \ , \ a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \ \text{の大小比較}
\end{align*}
\begin{align*}
\quad &\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right)-ab \\[ 10pt ]
= \ &\left(2a^{\scriptsize{2}}-2a+1 \right)-\left(-a^{\scriptsize{2}}+a \right) \\[ 10pt ]
= \ &3a^{\scriptsize{2}}-3a+1 \\[ 10pt ]
= \ &3 \left(a-\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{2}}-\frac{3}{4}+1 \\[ 10pt ]
= \ &3 \left(a-\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{2}}+\frac{1}{4}
\end{align*}
\begin{align*}
&0 \lt a \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad 3 \left(a-\frac{1}{2} \right)^{\scriptsize{2}}+\frac{1}{4} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right)-ab \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
差の符号(正負)が確実に分かる形を示さなければなりません。平方完成して実数の2乗の形を作ります。
2番目と3番目に小さいものを比較します。
問の解答例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&[ \ 2 \ ] \quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \ , \ a+b \ \text{の大小比較}
\end{align*}
\begin{align*}
\quad &\left(a+b \right)-\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \\[ 10pt ]
= \ &1-\left(2a^{\scriptsize{2}}-2a+1 \right) \\[ 10pt ]
= \ &-2a^{\scriptsize{2}}+2a \\[ 10pt ]
= \ &2a \left(1-a \right)
\end{align*}
\begin{align*}
&0 \lt a \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad 2a \left(1-a \right) \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a+b \right)-\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b
\end{align*}
3番目に小さいものと最大のものを比較します。平方根の大小関係では、平方の差を作って調べます。
問の解答例 5⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \\[ 10pt ]
&[ \ 3 \ ] \quad \sqrt{a} + \sqrt{b} \ , \ a+b \ \text{の大小比較}
\end{align*}
\begin{align*}
\quad &\left(\sqrt{a} + \sqrt{b} \right)^{\scriptsize{2}}-\left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
= \ &\left(\sqrt{a} + \sqrt{1-a} \right)^{\scriptsize{2}}-1^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
= \ &a+2\sqrt{a}\sqrt{1-a}+\left(1-a \right)-1 \\[ 10pt ]
= \ &2\sqrt{a}\sqrt{1-a}
\end{align*}
\begin{align*}
&0 \lt a \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad 2\sqrt{a}\sqrt{1-a} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(\sqrt{a} + \sqrt{b} \right)^{\scriptsize{2}}-\left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad \left(\sqrt{a} + \sqrt{b} \right)^{\scriptsize{2}} \lt \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\text{ここで} \\[ 5pt ]
&\quad \sqrt{a} + \sqrt{b} \gt 0 \ , \ a+b \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b}
\end{align*}
3つの場合分けの結果をまとめます。
問の解答例 6⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b} \\[ 7pt ]
&\text{$[ \ 1 \ ]$ ~ $[ \ 3 \ ]$ より} \\[ 5pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b}
\end{align*}
ところで、3つ目の場合分けでは、平方の差を利用しました。平方の差で符号を調べる場合、断りを忘れないようにしましょう。
正の数の大小と平方の大小
\begin{align*}
&\quad A \gt 0 \ , \ B \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{ならば} \\[ 5pt ]
&A \gt B \ \Leftrightarrow \ A^{\scriptsize{2}} \gt B^{\scriptsize{2}} \ \Leftrightarrow \ A^{\scriptsize{2}} – B^{\scriptsize{2}} \gt 0
\end{align*}
式の大小関係を比較する問題であっても、予め大小関係を予想できていれば、不等式の証明問題と捉えることができます。不等式の証明問題であれば、これまでに学習したことを活用できます。
式の大小比較は、不等式の証明問題に置き換えよう。そのためにも大小関係を予想しておこう。
問の別解例
解答例では、文字を減らしましたが、文字を減らさなくても解くことができます。
別解例の方が簡潔な答案になるのが利点です。ただ、上手く式変形する必要があるので、式の扱いに慣れておきましょう。
文字を減らしたり、残った文字の範囲を求める必要がないので、予想をもとに場合分けして大小関係を調べます。
問の別解例 1⃣
\begin{equation*}
[ \ 1 \ ]
\end{equation*}
\begin{align*}
&\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right)-ab \\[ 10pt ]
= \ &a^{\scriptsize{2}}-ab+b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
= \ &\left(a-\frac{1}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} -\frac{1}{4} b^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
= \ &\left(a-\frac{1}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4} b^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
\begin{align*}
&a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-\frac{1}{2} b \right)^{\scriptsize{2}} +\frac{3}{4} b^{\scriptsize{2}} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right)-ab \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}}
\end{align*}
平方完成を利用して、実数の2乗の形を作っています。複数種類の文字があると分かりづらいので注意しましょう。
2番目と3番目に小さいものを比較します。
問の別解例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
&[ \ 2 \ ]
\end{align*}
\begin{align*}
&\left(a+b \right)-\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \\[ 10pt ]
= \ &1 – \left\{ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}-2ab \right\} \\[ 10pt ]
= \ &1- \left( 1-2ab \right) \\[ 10pt ]
= \ &2ab
\end{align*}
\begin{align*}
&a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad 2ab \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a+b \right)-\left(a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \right) \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b
\end{align*}
ここでも平方完成を利用して式変形しています。
3番目に小さいものと最大のものを比較します。根号を含む式なので、平方の差を調べます。
問の別解例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \\[ 10pt ]
&[ \ 3 \ ]
\end{align*}
\begin{align*}
&\left(\sqrt{a} + \sqrt{b} \right)^{\scriptsize{2}}-\left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 10pt ]
= \ &a+b+2\sqrt{ab}-1 \\[ 10pt ]
= \ &1+2\sqrt{ab}-1 \\[ 10pt ]
= \ &2\sqrt{ab}
\end{align*}
\begin{align*}
&a \gt 0 \ , \ b \gt 0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad 2\sqrt{ab} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(\sqrt{a} + \sqrt{b} \right)^{\scriptsize{2}}-\left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \lt \left(\sqrt{a} + \sqrt{b} \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\text{ここで} \\[ 5pt ]
&\quad \sqrt{a} + \sqrt{b} \gt 0 \ , \ a+b \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b}
\end{align*}
平方の差で符号を調べる場合、平方する前の2数が正であることに言及しておきましょう。
3つの場合分けの結果をまとめます。
問の別解例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b} \\[ 10pt ]
&\text{$[ \ 1 \ ]$ ~ $[ \ 3 \ ]$ より} \\[ 5pt ]
&\quad ab \lt a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} \lt a+b \lt \sqrt{a} + \sqrt{b}
\end{align*}
文字は2種類のままですが、式変形に注意すれば取り組みやすい解法です。
また、式変形では、平方完成を利用する場面がありました。平方完成は、式の値を求める問題ではよく見られます。対称式などと相性が良いので、きちんとマスターしておきましょう。
平方完成による式の変形
\begin{align*}
&\text{基本対称式} \\[ 5pt ]
&\quad a+b \ , \ ab \\[ 7pt ]
&\text{を用いると} \\[ 5pt ]
&\quad a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}} = \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}-2ab
\end{align*}
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さいごにもう一度まとめ
- 式の大小比較の問題は、不等式の証明問題に置き換えよう。
- 式の大小関係を数を代入して、予め予想しておこう。
- 予想した大小関係をもとに、差を作って符号を調べよう。
- 予想した大小関係をもとに、順序よく比較しよう。
- これまでに学習した不等式の証明のやり方をしっかりマスターしておこう。