数学2
条件付きの等式の証明を扱った問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
問
$a+b+c=0$ のとき、次の等式が成り立つことを証明せよ。
\begin{align*}
&(1) \quad a^{\scriptsize{3}} \left(b-c \right)+b^{\scriptsize{3}} \left(c-a \right)+c^{\scriptsize{3}} \left(a-b \right)=0 \\[ 10pt ]
&(2) \quad \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}=-2\left(bc+ca+ab \right)
\end{align*}
等式(恒等式)の証明では、主に式の展開を用います。計算ミスに気をつければ、証明することはそれほど難しくありません。丁寧な計算過程を記述しましょう。
問(1)の解答・解説
問(1)
$a+b+c=0$ のとき、次の等式が成り立つことを証明せよ。
\begin{equation*}
\quad a^{\scriptsize{3}} \left(b-c \right)+b^{\scriptsize{3}} \left(c-a \right)+c^{\scriptsize{3}} \left(a-b \right)=0
\end{equation*}
条件式と証明したい等式とをよく見比べましょう。よく吟味して方針を立てる習慣を付けることが大切です。
特定の文字を減らす方法で証明します。ここでは、文字cを消去します。条件式をcについて変形します。
問(1)の解答例 1⃣
\begin{align*}
&\quad a^{\scriptsize{3}} \left(b-c \right)+b^{\scriptsize{3}} \left(c-a \right)+c^{\scriptsize{3}} \left(a-b \right)=0 \\[ 7pt ]
&a+b+c=0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad c=-\left(a+b \right)
\end{align*}
変形後の条件式を与式の左辺に代入します。
問(1)の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad a^{\scriptsize{3}} \left(b-c \right)+b^{\scriptsize{3}} \left(c-a \right)+c^{\scriptsize{3}} \left(a-b \right)=0 \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad c=-\left(a+b \right)
\end{align*}
\begin{align*}
&(\text{左辺}) \\[ 7pt ]
&= a^{\scriptsize{3}} \left\{ b+\left(a+b \right) \right\} +b^{\scriptsize{3}} \left\{ -\left(a+b \right)-a \right\} \\[ 7pt ]
&\quad + \left\{ -\left(a+b \right) \right\}^{\scriptsize{3}} \left(a-b \right) \\[ 7pt ]
&= a^{\scriptsize{3}}\left(a+2b \right)+b^{\scriptsize{3}}\left(-2a-b \right)-\left(a+b \right)^{\scriptsize{3}} \left(a-b \right) \\[ 7pt ]
&= a^{\scriptsize{4}}+2a^{\scriptsize{3}}b-2ab^{\scriptsize{3}}-b^{\scriptsize{4}}-\left(a^{\scriptsize{3}}+3a^{\scriptsize{2}}b+3ab^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{3}} \right) \left(a-b \right) \\[ 7pt ]
&= a^{\scriptsize{4}}+2a^{\scriptsize{3}}b-2ab^{\scriptsize{3}}-b^{\scriptsize{4}}-\left(a^{\scriptsize{4}}+2a^{\scriptsize{3}}b-2ab^{\scriptsize{3}}-b^{\scriptsize{4}} \right) \\[ 7pt ]
&= 0 \\[ 7pt ]
&= (\text{右辺})
\end{align*}
等式の証明では、符号のミスが多くなりがちです。丁寧に式変形すれば必ず等式を証明できるので、焦らずに取り組みましょう。
問(1)の別解例
別解を紹介しておきます。計算が簡単になるわけではないので、優先される解答例ではありません。しかし、変形のやり方にも色々あることを知っておくことは決して無駄になりません。
与式の左辺をaについて降べきの順に整理します。
問(1)の別解例 1⃣
\begin{align*}
&(\text{左辺}) \\[ 7pt ]
&= \left(b-c \right)a^{\scriptsize{3}} – \left(b^{\scriptsize{3}}-c^{\scriptsize{3}} \right)a+b^{\scriptsize{3}}c-bc^{\scriptsize{3}}
\end{align*}
aについての3次式になりました。
この3次式において、1番目の項を参考にして、2番目と3番目の項を変形して共通因数(b-c)をつくります。
共通因数ができたら、それをくくり出して因数分解します。
問(1)の別解例 2⃣
\begin{align*}
&(\text{左辺}) \\[ 7pt ]
&= \left(b-c \right)a^{\scriptsize{3}} – \left(b^{\scriptsize{3}}-c^{\scriptsize{3}} \right)a+b^{\scriptsize{3}}c-bc^{\scriptsize{3}} \\[ 7pt ]
&= \left(b-c \right)a^{\scriptsize{3}}-\left(b-c \right)\left(b^{\scriptsize{2}}+bc+c^{\scriptsize{2}} \right)a+bc\left(b+c \right)\left(b-c \right) \\[ 7pt ]
&= \left(b-c \right) \underline{ \left\{a^{\scriptsize{3}}-\left(b^{\scriptsize{2}}+bc+c^{\scriptsize{2}} \right)a+bc\left(b+c \right) \right\} }
\end{align*}
因数分解できたら、波括弧の中の式に注目します(別解例2⃣の下線部分)。
波括弧の中の式について、bについて降べきの順に整理します。
問(1)の別解例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(b-c \right) \underline{ \left\{a^{\scriptsize{3}}-\left(b^{\scriptsize{2}}+bc+c^{\scriptsize{2}} \right)a+bc\left(b+c \right) \right\} } \\[ 7pt ]
&\text{ここで}
\end{align*}
\begin{align*}
&a^{\scriptsize{3}}-\left(b^{\scriptsize{2}}+bc+c^{\scriptsize{2}} \right)a+bc\left(b+c \right) \\[ 7pt ]
= \ &\left(c-a \right)b^{\scriptsize{2}} + \left(c^{\scriptsize{2}}-ca \right)b+a^{\scriptsize{3}}-c^{\scriptsize{2}}a
\end{align*}
先ほどと同じ要領で共通因数をつくり、それをくくり出して因数分解します。
問(1)の別解例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)b^{\scriptsize{2}} + \left(c^{\scriptsize{2}}-ca \right)b+a^{\scriptsize{3}}-c^{\scriptsize{2}}a \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)b^{\scriptsize{2}} + c\left(c-a \right)b-a\left(c+a \right)\left(c-a \right) \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)\left\{ b^{\scriptsize{2}} +cb-a\left(c+a \right) \right\}
\end{align*}
さらに波括弧の中を因数分解します。
問(1)の別解例 5⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)\left\{ b^{\scriptsize{2}} +cb-a\left(c+a \right) \right\} \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)\left\{ b^{\scriptsize{2}} +cb-ac-a^{\scriptsize{2}} \right\} \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)\left\{ \left(b+a \right)\left(b-a \right) +c\left(b-a \right) \right\} \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)\left(b-a \right) \left\{ \left(b+a \right) +c \right\} \\[ 7pt ]
&= \left(c-a \right)\left\{ -\left(a-b \right) \right\} \left(a+b+c \right) \\[ 7pt ]
&= -\left(c-a \right)\left(a-b \right) \left(a+b+c \right)
\end{align*}
これは取り出した式なので、もとの式に戻します。
問(1)の別解例 6⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&= -\left(c-a \right)\left(a-b \right) \left(a+b+c \right) \\[ 7pt ]
&\text{よって、左辺は}
\end{align*}
\begin{align*}
&(\text{左辺}) \\[ 7pt ]
&= \left(b-c \right) \underline{ \left\{a^{\scriptsize{3}}-\left(b^{\scriptsize{2}}+bc+c^{\scriptsize{2}} \right)a+bc\left(b+c \right) \right\} } \\[ 7pt ]
&= \left(b-c \right) \underline{ \left\{-\left(c-a \right)\left(a-b \right) \left(a+b+c \right) \right\} } \\[ 7pt ]
&= -\left(a-b \right)\left(b-c \right)\left(c-a \right)\left(a+b+c \right)
\end{align*}
これで左辺の変形は終わりです。複雑な式変形だと思うかもしれませんが、慣れておきましょう。
条件式に対応する部分があるので、そこに条件式を代入します。
問(1)の別解例 7⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&= -\left(a-b \right)\left(b-c \right)\left(c-a \right)\left(a+b+c \right) \\[ 7pt ]
&= -\left(a-b \right)\left(b-c \right)\left(c-a \right) \cdot 0 \\[ 7pt ]
&= 0 \\[ 7pt ]
&= (\text{右辺}) \\[ 7pt ]
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad (\text{左辺})= (\text{右辺})
\end{align*}
かなりテクニカルな変形でしたが、このように降べきの順に整理しながら変形すると因数分解できることがあります。
「簡単な計算に」と言っても、限界はあります。ただ、このくらいであれば、入試でも十分にありうる計算です。
面倒な計算を避けるという方針は間違いではありません。しかし、どうしても避けることができない問題が出題される可能性もあります。そのときにこなせるだけの計算力をきちんと身に付けておきましょう。
問(2)の解答・解説
問(2)
$a+b+c=0$ のとき、次の等式が成り立つことを証明せよ。
\begin{equation*}
\quad \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}=-2\left(bc+ca+ab \right)
\end{equation*}
条件は(1)と同じです。(1)と同じ要領で、文字cを消去する方針で解きます。
問(2)の解答例 1⃣
\begin{align*}
&\quad \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}=-2\left(bc+ca+ab \right) \\[ 7pt ]
&a+b+c=0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad c=-\left(a+b \right)
\end{align*}
文字cは、左辺だけでなく右辺にもあります。変形後の条件式を、与式の左辺と右辺にそれぞれ代入します。
問(2)の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}=-2\left(bc+ca+ab \right) \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad c=-\left(a+b \right)
\end{align*}
\begin{align*}
&(\text{左辺}) \\[ 7pt ]
&= \left\{b-\left(a+b \right) \right\}^{\scriptsize{2}}+\left\{-\left(a+b \right)+a \right\}^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&= a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}}+a^{\scriptsize{2}}+2ab+b^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&= 2\left(a^{\scriptsize{2}}+ab+b^{\scriptsize{2}} \right) \\[ 7pt ]
&(\text{右辺}) \\[ 7pt ]
&= -2\left\{-b\left(a+b \right)-a\left(a+b \right)+ab \right\} \\[ 7pt ]
&= -2\left\{-ab-b^{\scriptsize{2}}-a^{\scriptsize{2}}-ab+ab \right\} \\[ 7pt ]
&= 2\left(a^{\scriptsize{2}}+ab+b^{\scriptsize{2}} \right)
\end{align*}
\begin{align*}
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad (\text{左辺}) = (\text{右辺})
\end{align*}
問(2)の別解例
文字の種類を減らすのは、上述の解答例と変わりませんが、与式の多項式を単項式に置き換えます。
問(2)の別解例 1⃣
\begin{align*}
&\quad \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}=-2\left(bc+ca+ab \right) \\[ 7pt ]
&a+b+c=0 \ \text{より} \\[ 5pt ]
&\quad b+c=-a \\[ 7pt ]
&\quad c+a=-b \\[ 7pt ]
&\quad a+b=-c
\end{align*}
変形後の条件式を、左辺と右辺の差に代入します。
問(2)の別解例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}=-2\left(bc+ca+ab \right) \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad b+c=-a \\[ 7pt ]
&\quad c+a=-b \\[ 7pt ]
&\quad a+b=-c
\end{align*}
\begin{align*}
&(\text{左辺})-(\text{右辺}) \\[ 7pt ]
&= \left(b+c \right)^{\scriptsize{2}}+\left(c+a \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(a+b \right)^{\scriptsize{2}}+2\left(bc+ca+ab \right) \\[ 7pt ]
&= \left(-a \right)^{\scriptsize{2}}+\left(-b \right)^{\scriptsize{2}}+ \left(-c \right)^{\scriptsize{2}}+2\left(bc+ca+ab \right) \\[ 7pt ]
&= a^{\scriptsize{2}}+b^{\scriptsize{2}}+ c^{\scriptsize{2}}+2ab+2bc+2ca \\[ 7pt ]
&= \left(a+b+c \right)^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&= 0^{\scriptsize{2}} \\[ 7pt ]
&= 0
\end{align*}
\begin{align*}
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad (\text{左辺}) = (\text{右辺})
\end{align*}
基本的な解法(差をつくる)に、条件式を代入する手順を加えています。基本的な解法であっても、条件式の代入によって多項式が単項式に置き換わると、かなり楽な式変形になります。
ただし、(1)のように、多項式を単項式に置き換えできない場合もあります。与式と条件式をよく見て、式変形の負担が少ない解法を選びましょう。
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さいごにもう一度まとめ
- 条件付きの等式では、条件式を代入して「条件式のない等式の証明」に帰着させよう。
- 等式の証明では、3通りの方法から簡単な計算になりそうな方法を選択しよう。
- 文字の種類を減らすために条件式を使おう。
- 条件式を上手に使うことで、簡単な計算で済ますことができる。