式と証明|分数式の恒等式について

数学2

数学2 式と証明

今回は分数式の恒等式について学習しましょう。分数式の場合、少し工夫する必要がありますが、これまでと同じように扱うことができます。

もちろん、係数比較法や数値代入法を用いて解くことができます。

分数式の恒等式

分数式の恒等式を扱う場合、分数式そのままで解くことはしません。等式であることを活かして、分数式の分母を払って変形します。すると、分数式の等式から、両辺がともに整式となった等式に変わります。

もし、変形後の等式が恒等式であれば、もとの等式も恒等式となります。変形後の等式は、これまで扱っていた等式と何も変わりません。ですから、係数比較法数値代入法を用いることができます。

(分数式)=(分数式)の等式から、(整式)=(整式)の等式に変形しよう。

例題を解いてみよう

次の例題を解いてみましょう。

例題

\begin{align*} &\text{次の等式が $x$ についての恒等式となるように、} \\[ 5pt ] &\text{定数 $a \ , \ b$ の値を定めよ。} \\[ 10pt ] &\quad \frac{5x+1}{(x+2)(x-1)} = \frac{a}{x+2} + \frac{b}{x-1} \end{align*}

例題の解答・解説

与式は分数式を含むので、分母を払って整式の等式に変形します。両辺をともに整式にするには、分数式の分母をよく観察しましょう。ここでは、左辺の分母にある2次式を両辺に掛けます。

分母を払って整式へ

\begin{align*} &\text{両辺に $(x+2)(x-1)$ を掛けて} \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = a(x-1)+b(x+2) \quad \cdots \text{①} \end{align*}

分数式から整式へ変形できました。ここからは係数比較法、または数値代入法で解きます。①式を見ると、どちらの方法でもそれほど差はないでしょう。

係数比較法による解答例

係数比較法を用いるために、①式の右辺を展開して整理します。

係数比較法のために右辺を整理する

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = a(x-1)+b(x+2) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ] &\text{①の右辺を整理すると} \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = (a+b)x+(-a+2b) \end{align*}

両辺を見比べて、同じ次数の項の係数を比較します。両辺ともに1次式なので、1次の項の係数どうし、定数項どうしをそれぞれ比較します。

係数を比較する

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = (a+b)x+(-a+2b) \\[ 5pt ] &\text{両辺の同じ次数の項の係数を比較すると} \\[ 5pt ] &\quad \begin{cases} 5&=a+b &\quad \cdots \text{②} \\ 1&=-a+2b &\quad \cdots \text{③} \end{cases} \end{align*}

定数a,bについての1次式を2つ得ることができました。ともに成り立つ必要があるので、連立させます。つまり、連立方程式になります。

連立方程式を解きます。計算ミスしないように気を付けましょう。

連立方程式を解く

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\quad \begin{cases} 5&=a+b &\quad \text{…②} \\ 1&=-a+2b &\quad \text{…③} \end{cases} \\[ 5pt ] &\text{②+③より} \\[ 5pt ] &\quad 6=3b \\[ 5pt ] &\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ] &\text{これと②より} \\[ 5pt ] &\quad 5=a+2 \\[ 5pt ] &\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ] &\text{したがって、定数 $a \ , \ b$ の値は} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=2 \end{align*}

次は数値代入法を用いて解きます。

数値代入法による解答例

分数式の分母を払って、①式を導出するまでは係数比較法と同じです。

①式をよく観察して、簡単な形の式を導出できそうな数値を代入しましょう。右辺の各項が因数分解されていることに注目して、数値を代入します。

数値を代入する

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = a(x-1)+b(x+2) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ] &\text{①が $x$ についての恒等式であれば} \\[ 5pt ] &\text{$x=1$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 6=3b \\[ 5pt ] &\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ] &\text{$x=-2$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad -9=-3a \\[ 5pt ] &\ \therefore \ a=3 \end{align*}

aだけ、あるいはbだけの方程式になるように、数を代入しましょう。

数値代入法の方が楽な計算で済みますが、これで終わりではありません。与式が恒等式であることの確認が必要です。

求めた定数a,bの値を代入して、①式が恒等式であることを実際に確認します。

①式が恒等式であることの確認

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = a(x-1)+b(x+2) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ] &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ] &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ] &\text{逆に、このとき①の右辺は} \\[ 5pt ] &\quad 3(x-1)+2(x+2) = 5x+1 \\[ 5pt ] &\text{となり、左辺と一致するので、} \\[ 5pt ] &\text{①は恒等式となる。} \\[ 5pt ] &\text{したがって、定数 $a \ , \ b$ の値は} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=2 \end{align*}

数値代入法では、等式が恒等式であることの確認を必ず行いましょう。

「逆に」以降の記述には別解があります。

恒等式であれば、文字xの値にかかわらず成り立ちます。このことは、文字xに異なる2個の値を代入したとき、等式が成り立てば示すことができます。

①式が恒等式であることの確認(別解)

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\quad 5x+1 = a(x-1)+b(x+2) \quad \cdots \text{①} \\[ 5pt ] &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\ \therefore \ b=2 \\[ 5pt ] &\quad \vdots \\[ 5pt ] &\ \therefore \ a=3 \\[ 5pt ] &\text{このとき、①の両辺は $1$ 次以下の整式であり、} \\[ 5pt ] &\text{異なる $2$ 個の $x$ の値に対して等式が成り立つ。} \\[ 5pt ] &\text{よって、①は恒等式である。} \\[ 5pt ] &\text{したがって、定数 $a \ , \ b$ の値は} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=2 \end{align*}

少し分かりにくい記述かもしれませんが、恒等式の定義を分かっているからこその記述です。

分母が0になるときの値の扱い

例題を数値代入法で解くとき、x=-2,1を代入しています。この値は分数式では分母が0となる値です。

もとの分数式のままであれば、これらの値を代入することはできません。しかし、整式に変形した後であれば、分数式ではないので代入しても問題ありません。

また、x=-2,1は分数式では除外される値です。ですから、これらの値を使って恒等式であることを示せるのか、という疑問が湧くかもしれません。これは以下のような考え方から問題ないことが分かります。

もとの等式が恒等式であると言える考え方

x=-2,1のとき、①が成り立つ。

⇔ ①はxの恒等式であり、任意のxに対して成り立つ。

⇔ ①はx≠-2,x≠1を満たすすべてのxに対して成り立つ。このとき、(x+2)(x-1)≠0

⇔ ①の両辺を(x+2)(x-1)で割った式、つまり与式は、x≠-2,x≠1においてつねに成り立つ。

⇔ 与式は恒等式になる。

もとの等式では、分母が0になる値x=-2,1を除外して等式が成り立てば良いわけです。そのために、一旦、もとの等式から離れて、変形後の等式が恒等式であることを示します(恒等式となるように定数を定める)。

このとき、変形後の等式が恒等式であることを示すことができさえすれば、どんな値でも良いのです。示すのに都合の良い値がx=-2,1だったわけです。

変形後の等式が恒等式であれば、x=-2,1以外でも等式が成り立ちます。もとの等式と変形後の等式とは、形が変わっただけの関係です。ですから、もとの等式でもx=-2,1以外で等式が成り立ちます

このようなロジックが成り立つので、変形後の等式に分母が0となる値x=-2,1を代入しても構いません。また、変形後の等式が恒等式であれば、もとの等式も恒等式です。

分母が0となる値以外でも等式が成り立つことを示すために、変形後の等式が恒等式となるように定数を定める。

部分分数を用いた解答例

ここでは、分数式の分母を払って、整式の等式に変形しました。実は、分数式のままでも解くことができます。すでに学習した部分分数を利用します。

左辺の分数式を部分分数に分解します。

左辺を部分分数に分解する

\begin{align*} &\text{与式の左辺を部分分数に分解すると} \\[ 5pt ] &\qquad \frac{5x+1}{(x+2)(x-1)} \\[ 10pt ] &\quad = \frac{3(x-1)+2(x+2)}{(x+2)(x-1)} \\[ 10pt ] &\quad = \frac{3(x-1)}{(x+2)(x-1)} + \frac{2(x+2)}{(x+2)(x-1)} \\[ 10pt ] &\quad = \frac{3}{x+2} + \frac{2}{x-1} \\[ 10pt ] &\text{分数式の同じ分母の分子が等しくなれば良いので} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=2 \end{align*}

右辺の分数式と同じになるように分子を変形します。ただ、左辺の分子を上手く変形できないかもしれません。そんなときは、まず右辺を通分してみましょう。式変形としては、部分分数に分解するよりも通分する方が簡単です。

右辺を通分して左辺の分子を予測する

\begin{align*} &\text{与式の右辺を通分すると} \\[ 5pt ] &\qquad \frac{a}{x+2} + \frac{b}{x-1} \\[ 10pt ] &\quad = \frac{a(x-1)}{(x+2)(x-1)}+\frac{b(x+2)}{(x+2)(x-1)} \\[ 10pt ] &\quad = \frac{a(x-1)+b(x+2)}{(x+2)(x-1)} \\[ 10pt ] &\text{これより、左辺の分子 $5x+1$ を $(x-1)$ を含む項と} \\[ 5pt ] &\text{$(x+2)$ を含む項に変形できる。} \end{align*}

左辺の変形で躓いたとき、参考にするための逆算的な解法です。どんな項があるのかを予め知っていると変形しやすくなるでしょう。

部分分数に分解する解法は、分数式の分解だけで済み、方程式を解く手間が省けるのでおすすめです。

次は、分数式の恒等式を扱った問題を実際に解いてみましょう。