式と証明|恒等式の係数決定(数値代入法)について
恒等式の係数比較法を扱った問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
問
次の等式が $x$ についての恒等式となるように、定数 $a \ , \ b \ , \ c \ , \ d$ の値を定めよ。
\begin{align*} &(1) \quad x^{\scriptsize{3}} = a+b(x-1)+c(x-1)(x-2)+d(x-1)(x-2)(x-3) \\[ 7pt ] &(2) \quad x^{\scriptsize{3}}+(x+1)^{\scriptsize{3}}+(x+2)^{\scriptsize{3}} = ax(x-1)(x+1)+bx(x-1)+c(x-2)+cx+d \end{align*}係数比較法であれば、どちらも3次式の展開公式で展開する必要があります。計算量が多くなりそうなので、数値代入法を用いて解きましょう。
与式を観察して、係数比較法と数値代入法のどちらで解けば良いかを考えよう。
問(1)の解答・解説
問(1)
次の等式が $x$ についての恒等式となるように、定数 $a \ , \ b \ , \ c \ , \ d$ の値を定めよ。
\begin{equation*} \quad x^{\scriptsize{3}} = a+b(x-1)+c(x-1)(x-2)+d(x-1)(x-2)(x-3) \end{equation*}数値代入法を用いて、4つの未知数a,b,c,dに関する式を4つ導出します。そのために、右辺の各項が因数分解されていることに注目します。
代入する数値として、求めたい未知数ができるだけ少なくなるような数値を選びます。
たとえば、右辺では、(x-1)が3つの項に共通因数として存在します。このことに注目して、x=1を与式に代入すれば、未知数aだけを残すことができます。
好き勝手に数値を代入するのではなく、各項の共通因数に注目して、数値を代入しよう。
各項の共通因数に注目して、数値を代入します。
問(1)の解答例 1⃣
与式が $x$ についての恒等式であるならば、$x$ にどのような値を代入しても等式が成り立つことを利用する。
\begin{align*} &\text{$x=1$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 1=a \\[ 7pt ] &\text{$x=2$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 8=a+b \quad \text{よって} \ b=7 \\[ 7pt ] &\text{$x=3$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 27=a+2b+2c \quad \text{よって} \ c=6 \\[ 7pt ] &\text{$x=0$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 0=a-b+2c-6d \quad \text{よって} \ d=1 \\[ 7pt ] &\text{よって} \\[ 5pt ] &\quad a=1 \ , \ b=7 \ , \ c=6 \ , \ d=1 \end{align*}数値を代入するだけで簡単な方程式を導くことができます。これで係数を求めることができましたが、ここで終わってはいけません。
求めた係数を右辺に代入して、与式が恒等式となることを実際に確かめます。
問(1)の解答例 2⃣
逆に、このとき与式の左辺は
\begin{align*} \quad &1+7(x-1)+6(x-1)(x-2)+(x-1)(x-2)(x-3) \\[ 7pt ] = \ &1+7x-7+(x-1)(x-2) \left\{6+(x-3) \right\} \\[ 7pt ] = \ &7x-6+(x^{\scriptsize{2}}-3x+2)(x+3) \\[ 7pt ] = \ &7x-6+x^{\scriptsize{3}}-7x+6 \\[ 7pt ] = \ &x^{\scriptsize{3}} \end{align*}となり、右辺と一致するので、与式は恒等式となる。
\begin{align*} &\text{したがって} \\[ 5pt ] &\quad a=1 \ , \ b=7 \ , \ c=6 \ , \ d=1 \end{align*}問(1)の解答例 2⃣(別解)
このとき、等式の両辺は $3$ 次以下の整式であり、異なる $4$ 個の $x$ の値に対して等式が成り立つ。
よって、この等式は恒等式である。
\begin{align*} &\text{したがって} \\[ 5pt ] &\quad a=1 \ , \ b=7 \ , \ c=6 \ , \ d=1 \end{align*}実際に確認して同じ式にならなければ、計算ミスをしていることになります。検算を兼ねているので、最後の確認を忘れないようにしましょう。
3次式以下の与式が方程式であれば、3個以下のxの値に対して等式が成り立ちます。言い換えると、方程式である与式が3個以下の解をもつということです。
しかし、ここでは4個のxの値に対して等式が成り立つように定めたので、与式は恒等式と言えます。
方程式であれば、次数よりも多い解をもつことはない。解は等式が成り立つ特定の値だが、それが次数よりも多く存在するということは、方程式ではなく、恒等式であるということになる。
問(2)の解答・解説
問(2)
次の等式が $x$ についての恒等式となるように、定数 $a \ , \ b \ , \ c \ , \ d$ の値を定めよ。
\begin{equation*} \quad x^{\scriptsize{3}}+(x+1)^{\scriptsize{3}}+(x+2)^{\scriptsize{3}} = ax(x-1)(x+1)+bx(x-1)+c(x-2)+cx+d \end{equation*}問(2)も(1)と同じように、数値代入法を利用します。4つの未知数a,b,c,dがあるので、与式に適切な数値を代入して、未知数に関する式を4つ導出します。
代入した後に残る未知数が、できるだけ少なくなるような数値を代入します。
問(2)の解答例 1⃣
与式が $x$ についての恒等式であるならば、$x$ にどのような値を代入しても等式が成り立つことを利用する。
\begin{align*} &\text{$x=0$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 9=d \\[ 7pt ] &\text{$x=1$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 36=c+d \quad \text{よって} \ c=27 \\[ 7pt ] &\text{$x=-1$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad 0=2b-c+d \quad \text{よって} \ b=9 \\[ 7pt ] &\text{$x=-2$ を代入して} \\[ 5pt ] &\quad -9=-6a+6b-2c+d \quad \text{よって} \ a=3 \\[ 7pt ] &\text{よって、} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=9 \ , \ c=27 \ , \ d=9 \end{align*}係数を求めたらそのまま終わらせずに、与式が恒等式となることを実際に確かめます。
問(2)の解答例 2⃣
逆に、このとき与式の右辺は
\begin{align*} \quad &3x(x-1)(x+1)+9x(x-1)+27x+9 \\[ 7pt ] = \ &3x(x^{\scriptsize{2}}-1)+9x^{\scriptsize{2}}-9x+27x+9 \\[ 7pt ] = \ &3x^{\scriptsize{3}}+9x^{\scriptsize{2}}+15x+9 \end{align*}また、与式の左辺は
\begin{align*} \quad &x^{\scriptsize{3}}+(x+1)^{\scriptsize{3}}+(x+2)^{\scriptsize{3}} \\[ 7pt ] = \ &3x^{\scriptsize{3}}+9x^{\scriptsize{2}}+15x+9 \end{align*}となり、両辺は一致するので、与式は恒等式となる。
\begin{align*} &\text{したがって} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=9 \ , \ c=27 \ , \ d=9 \end{align*}問(2)の解答例 2⃣(別解)
このとき、等式の両辺は $3$ 次以下の整式であり、異なる $4$ 個の $x$ の値に対して等式が成り立つ。
よって、この等式は恒等式である。
\begin{align*} &\text{したがって} \\[ 5pt ] &\quad a=3 \ , \ b=9 \ , \ c=27 \ , \ d=9 \end{align*}3次式以下の与式が方程式であれば、3個以下のxの値に対して等式が成り立ちます。しかし、4個のxの値に対して等式が成り立つように定めたので、与式は恒等式と言えます。
恒等式の性質その2を忘れないようにしましょう。
恒等式の性質その2
$P \ , \ Q$ が $x$ についての $n$ 次以下の整式であるとき、等式 $P=Q$ が $(n+1)$ 個の異なる $x$ の値に対して成り立つならば、等式 $P=Q$ は $x$ についての恒等式である。
もちろん、問(1),(2)を解くのに係数比較法を利用しても構いません。恒等式の係数決定では、係数比較法を用いた解法を優先するのが基本方針です。
数値代入法の場合、確認を記述し忘れてしまえば、不十分な答案になってしまいます。
それに対して、係数比較法であれば、計算だけで済ませることができます。記述する内容も難しくなく、計算ミスだけに気をつければ良いので、気分的にはだいぶ楽です。
解法の選択に迷わないように、それぞれの解法を利用する問題をしっかりとマスターしておくことが大切です。
Recommended books
計算力は重要な要素となります。試験では考える時間を多く取るために、いかに計算を手早く行うかが重要です。
計算力の有無は、数学2・Bや数学3では顕著になります。計算に時間がかかりすぎては解けるものも解けません。後悔しないためにも日頃からしっかり鍛えておきましょう。
これから紹介する教材で気になるものがあれば、ぜひ一読してみて下さい。気に入ったら最後まで徹底的にこなしましょう。
オススメその1『合格る計算数学1・A・2・B』
オススメその2『鉄緑会 基礎力完成 数学Ⅰ・A+Ⅱ・B』
大事なことは、自分に合った教材を徹底的に活用することです。どの教材を選ぶにしても、自分の目で中身を確認し、納得してから購入することが大切です。
さいごにもう一度まとめ
- 恒等式の係数を求める方法は、係数比較法と数値代入法の2通りある。
- 数値代入法では、与式に計算が楽になる数値を代入して係数を求める。
- 数値代入法では、等式が恒等式になることの確認を必ず行う。