数学A|合同式を使って入試問題を解いてみよう

以前の記事で、合同式を紹介しました。その合同式を使って、国立大学の2次試験で実際に出題された問題を解いてみましょう。
2次試験の問題と言われると、記述形式なのでとても難しそうな感じがします。しかし、すべてが難易度の高い問題というわけではありません。もちろん、易しすぎるわけでもないので、油断は禁物です。
典型的な問題も出題されるので、そのような問題を確実に解けるように演習をこなしておくことが大切です。
過去問を解いてみよう
まずは力試しに自力で解いてみると良いでしょう。
問題
さいごに数列が出てきていますが、数列の知識がなくても解くことができます。これでも一応、数学Aの分野に分類される問題です。
問題(1)の解答・解説
問題(1)
問題(1)は、3nを10で割ったときの余りan を考える問題です。与式だけだと抽象的な印象のままなので、問題の意図を掴みにくいです。最初は手探りになるのは当たり前なので、方針を決めるためにも具体化してみましょう。
具体化して情報を整理しよう
実際にn=1,2,3,… を代入して余りを求めます。nに代入する値が多ければ多いほど、多くの情報を得ることができます。中途半端に代入せず、何かしらの規則性が見つかるまで根気強く具現化しましょう。
実際に10で割って、余りanを求めた結果は以下のようになります。
具体化して規則性を探す
指数で分類しよう
表から分かるように、余りanは4つの数3,9,7,1を1セットにして繰り返すことが分かります。ですから、3nを10で割ったときの余りanは3,9,7,1のいずれかになることが分かります。
過去の入試でも数列の問題で、余りが繰り返すことを利用する問題が出題されている。扱い方に慣れておこう。
余りanが4つの数を1セットにして繰り返すことから、nの値が分かれば余りanも分かります。この関係を利用して、余りanからnを分類します。
余りanからnを分類する
以上のことを踏まえて答案を作成します。なお、問題(1)では結論だけを示せば良いので、分類したことが分かるように記述します。
問題(1)の解答例
問題(1)は結論だけで良いので、何とか解答することができるでしょう。ただ、問題(2)からは過程を省略できないので、筋道立てて説明できる記述力が必要になります。
問題(2)の解答・解説
問題(2)
問題(2)は、3nを4で割ったときの余りbnを考える問題です。問題(1)と同じように、何かしらの規則性が見つかるまで具体化してみましょう。
具体化して情報を整理しよう
実際に余りbnを求めると以下のようになります。情報は多い方が良いので、できる限り計算しましょう。
具体化して規則性を探す
指数で分類しよう
表から分かるように、余りbnは2つの数3,1を1セットにして繰り返すことが分かります。ですから、3nを4で割ったときの余りbnは3,1のいずれかになることが分かります。
余りbnが2つの数を1セットにして繰り返すことから、nの値が奇数と偶数のどちらであるのかが分かれば、余りbnも分かります。
問題(1)と同じようにそのまま分類したいところですが、このままだと経験的に分かったことを記述するだけなので、根拠としては弱いです。ですから、nが奇数であれば余りが必ず3となり、nが偶数であれば余りが必ず1となることを示す必要があります。ここで合同式の出番です。
指数が偶数と奇数になるように、合同式を上手に変形します。そのためには合同式の性質を使いこなせなければなりません。解答例は以下のようになります。
問題(2)の解答例
ちなみに、問題(2)で利用した合同式の性質は以下のようになります。主に、合同式の性質②(3,4)を利用しています。
合同式のまとめ
- 合同式
a-b が m の倍数であるとき、a \ , \ b は m を法として合同であるといい、a \equiv b \pmod m と式で表す。このような式を合同式という。 - 合同式の性質①
- 反射律 a \equiv a \pmod m
- 対称律 a \equiv b \pmod m のとき、b \equiv a \pmod m
- 推移律 a \equiv b \pmod m \ , \ b \equiv c \pmod m のとき、
a \equiv c \pmod m または a\equiv b \equiv c \pmod m
- 合同式の性質② a \equiv b \pmod m \ , \ c \equiv d \pmod m のとき、次のことが成り立つ。
- a+c \equiv b+d \pmod m
- a-c \equiv b-d \pmod m
- ac \equiv bd \pmod m
- 自然数 n (0以上の整数も可)に対し a^n \equiv b^n \pmod m
合同式以外の解き方だと数学的帰納法などで解けそうですが、合同式の方が簡潔に解答することができます。
問題(3)の解答・解説
問題(3)
最後の問題(3)は、x10を10で割った余りを求める問題です。与式は数列の漸化式です。しかし、数列の一般項を求めたり、数列の和を求めたりするわけではありません。数列の知識がなくても解ける問題になっています。それよりもむしろ、問題(1),(2)の結果を活用して解くことを考えなければなりません。
具体化して情報を整理しよう
問題(1),(2)と同じ要領で、何かしらの規則性が見つかるまで具体化します。x1,x2,x3,…については、与式にn=1,2,3,…を代入して求めます。
具体化して規則性を探す
これを表にまとめると以下のようになります。
具体化したものを整理する
このままだとnの値とxの添え字が揃っていないので、対応するように整理し直します。
nの値とxの添え字を対応させる
x1=1より、x1は奇数です。また、x2,x3,…も3の累乗で表されるので、すべて奇数になることが分かります(表3行目参照)。
このことから、xnを10で割った余りは、問題(1)の結果から3,9,7,1のいずれかになるだろうと予想できます。
しかし、4つの数のどれになるかまでは特定はできません。指数がどんな数になるのか分からないからです。
指数がどんな数になるのか調べよう
xnの値だけでなく、指数にも目を向けてみましょう。n≧2のとき、各数やその指数に3の累乗が現れます。ですから、3の累乗に注目します。なお、問題(1),(2)を利用するために、30はここでは考えません。
3の累乗に注目すると、表から以下のことが分かります。
3の累乗に注目したときに分かること
- xnそのものが3の累乗で表されるのはx2からで、これらが次の数の指数になる。
- 指数が3の累乗で表されるのはx3の指数から。
このことからn≧3のとき、指数が3の累乗で表されるので、問題(1),(2)の結果を利用して、指数がどんな数になるのか調べることができそうです。
3の累乗に注目する
x2,x3,x4,…は、3の累乗31,33,327,… で表されます。そして、その指数は、1,3,27,…であり、すべて奇数です。
ここで、問題(2)の結果から、指数が奇数である3の累乗を4で割った余りは3となることがすでに分かっています。このことから、x2,x3,x4,…は、すべて指数が奇数である3の累乗となるので、これらを4で割った余りは必ず3となることが分かります。
このような数が、次の数の指数になります。したがって、x3,x4,…の指数は、すべて4で割った余りが必ず3となる数になります。
各数について分かったこと
x2,x3,x4,… = 31,33,327,…
= どの数も指数が奇数である3の累乗
= どの数も4で割った余りは3となる
= これらは次の数の指数になる
= x3以降の指数は、すべて4で割った余りは3となる
これでx3以降の指数がどんな数になるのかを知ることができました。
x10はx3以降の数なので、その指数はもちろん4で割った余りが3になる数です。ですから、問題(1)の結果を参考にすると、10で割った余りが分かります。解答例は以下のようになります。
問題(3)の解答例
指数が累乗で表されるせいで分かりにくくなっていますが、問題(1),(2)を意識しながら解くことが大切です。
問題について
問題(1),(2)については、具体例を挙げることで、結論を予想することができます。特に、問題(2)では、その予想を示すために、合同式を利用しました。
また、問題(3)では、具体例を挙げることはもちろんですが、問題(1),(2)がどのような意味でヒントになっているのかを見抜くことがポイントです。
大問形式の問題では、それまでに解いた問題が布石になっていることがほとんどです。
もし、手が止まってしまったら、これまでに解いた問題を振り返ってみると良いでしょう。その際には「出題者が自分に何をさせたいのか」という視点に立って問題を眺めると、きっかけを得られるかもしれません。
実は、この問題は東京大学の2次試験に出題された問題(2016年・文科)です。予備校などの評価では、難易度は標準レベルのようです。上述した解答例はあくまでも一例なのでご了承下さい。
東京大学のサイトでは直近3年分を閲覧できます。また、出題意図も一部公表されています。残念ながら、解答や解説などはすべて公表されているわけではないので注意しましょう。
受験予定の人は赤本や青本などを購入した方が良いでしょう。
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整数の合同を最初に研究したのはガウスだそうです。研究内容は、1801年に出版されたガウスの『Disquisitiones Arithmeticae (整数論)』に収録されています。
整数の合同だけでなく、奥の深い整数。興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。
これで整数問題は怖いものなしです。
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