式と証明|不等式の式変形でやってよいこと、やってはいけないことについて

今回は、不等式を変形するとき、やってよいこと、やってはいけないことについて学習しましょう。
等式と違って、不等式は基本的に大小関係のある式です。ですから、等式よりも注意して扱う必要があります。
特に、文字を含む不等式であれば、大小関係がわかりにくくなります。ですから、気付かないうちに誤った式変形をすることがあります。
式変形でやってよいこと、やってはいけないことをしっかり理解しておくことが大切です。
不等式の変形
不等式の変形については、数学1の単元ですでに学習しています。
例えば、1つの不等式について、以下のような式変形が可能です。
- 両辺にcを加える、または両辺からcを引く ⇒ 不等号の向きはそのまま
- 両辺にcを掛ける、または両辺をcで割る ⇒ cの符号によって不等号の向きが変わる
これらは不等式の基本的な性質です。これらを踏まえて式変形をするわけですが、両辺が文字を含む式になると正負が分かりにくくなるので、油断すると間違えてしまいます。
これから、不等式の式変形でやってよいこと、やってはいけないことをいくつか紹介します。
ここでの「やってよいこと」とは、式変形しても不等式が成り立つことで、条件によって結果が異なることがあっても規則性のあるものです。
また、「やってはいけないこと」とは、式変形によって不等号が成り立たなくなることで、規則性のないものです。想定している式変形は、以下の事柄です。
想定している式変形
- 1つの不等式を式変形する場合
- 両辺の逆数をとる
- 両辺を平方する、両辺の平方根をとる
- 2つの不等式を式変形する場合
- 辺々を加える
- 辺々を掛ける
- 辺々を引く、辺々を割る
1つの不等式を式変形する場合
1つの不等式を式変形する場合です。この場合、両辺の逆数をとる変形や、両辺を平方する、両辺の平方根をとる変形をすることがあります。
両辺の逆数をとる
「両辺の逆数をとる」という変形は、等式でもよく用いられます。等式では何も問題ありませんが、不等式では気を付けましょう。不等式では、両辺の符号の組合せ(同符号か異符号か)によって結果が異なります。
まず、不等式の両辺が同符号のときです。
不等式の両辺が同符号のとき
a , b が同符号のとき
a>b ⇔ 1a<1b例)不等号の向きが変わる
10>7 ⇔ 110<17−5>−13 ⇔ −15<−113両辺が同符号のとき、逆数をとると絶対値の大小関係が逆転します。ですから、もとの大小関係とは逆になり、不等号の向きが変わります。
次に、不等式の両辺が異符号のときです。
不等式の両辺が異符号のとき
a , b が異符号のとき
a>b⇔ a>0 , b<0⇔ 1a>0 , 1b<0⇔ 1a>1b例)不等号の向きは変わらない
5>−7 ⇔ 15>−17両辺が異符号のとき、逆数をとっても正の数は正の数のままで、負の数は負の数のままです。もとから正負の違いがあるので、大小関係は変わらず、不等号の向きは変わりません。
両辺の逆数をとる:両辺が同符号か異符号かによって結果が異なる。条件「両辺が同符号か異符号か」を確認しよう。
不等式の式変形では、不等号の向きを間違うことが多いですが、例のように具体的な数を用いて考えると、些細なミスを事前に防ぐことができます。特に、負の数どうしだとよく間違えるので注意しましょう。
両辺を平方する、両辺の平方根をとる
「両辺を平方する、両辺の平方根をとる」という変形も、等式であれば問題ありませんが、不等式では注意する必要があります。
両辺を平方したり、両辺の平方根をとるには、平方するものがともに正であれば、不等号の向きはそのままで変わりません。
不等式の両辺を平方する、両辺の平方根をとる
a>0 , b>0 のとき
a>b ⇔ a2>b2例) 平方根の正負が不明
5>3ならば
25>9は成り立つが、a , b の正負が不明のとき
9 の平方根が ±3,25 の平方根が ±5 より
a2>b2 ⇒ a>bが成り立つとは一概に言えない。
なお、両辺の平方根をとるとき、平方根(平方するもの)の正負が分からなければ、不等号の向きが決まらないので注意しましょう。
また、平方するものが負であったり、両辺が異符号であったりすると、両辺を平方したとき不等号の向きは変わったり、変わらなかったりします。
平方根(平方するもの)の正負が不明のとき
例)不等号の向きに規則性がない
5>−3ならば
25>9また
3>−5ならば
9<25平方根をとるときも同様で、先ほどと同じように平方根(平方するもの)の正負が分からなければ、不等号の向きが決まりません。
両辺を平方する、両辺の平方根をとる:平方するものがともに正であれば、不等号はそのままで良い。条件「平方するものがともに正」を確認しよう。
2つの不等式を式変形する場合
辺々を加える
辺々を加えるとは、左辺どうし、右辺どうしを足し算することです。
2つの不等式について、辺々を加えるには不等号が同じ向きに揃っていることが条件です。この条件を守っていれば、辺々を加えても不等号の向きは変わりません。
辺々を加える
a>b , c>d ならば
a+c>b+d例)不等号の向きが変わらない
7>2 , 5>1ならば
7+5>2+1すなわち
12>3また
−5>−13 , 5>1ならば
−5+5>−13+1すなわち
0>−12両辺が同符号か異符号かにかかわらず、不等号の向きを揃えておけば、辺々を加えても構いません。
辺々を加える:不等号の向きを揃えて、辺々を加えて良い。不等号の向きが揃っていれば問題なし。
辺々を掛ける
2つの不等式について、辺々を掛けるには各辺がすべて正であることが条件です。この条件があれば、辺々を掛けても不等号の向きが変わりません。
辺々を掛ける
a>b >0_ , c>d >0_ ならば
ac>bd例)不等号の向きが変わらない
7>2 (>0) , 5>1 (>0)ならば
7×5>2×1すなわち
35>2例)条件に合わないと規則性がない
5>−7 , 2>−3ならば
5×2=10−7×(−3)=21より
10<21各辺がすべて正でなければ、不等号の向きが変わったり、変わらなかったりします。つまり、その時々によって結果が異なり、規則性がありません。
辺々を掛ける:各辺がすべて正であれば、辺々を掛けて良い。条件「各辺がすべて正」を確認しよう。
辺々を引く、辺々を割る
2つの不等式について、辺々を引いたり、辺々を割ったりすると、ほとんどの場合で不等式が成り立ちません。ですから、これらの式変形はやってはいけません。
辺々を引く、辺々を割る
a>b , c>dという条件だけで
a−c>b−dac>bdといった式変形はやってはいけない。
例)
7>2 , 5>0のとき、辺々引くと
7−5=22−0=2となる。
また、辺々割ると
75=1.420となる。
いずれにしても不等式が成り立たないことがある。
両辺が同じ値になれば、不等式ではなく等式になってしまいます。
また、0で割る割り算はできません。仮に0でなかったとしても、不等号の向きがその時々で変わり、規則性がありません。
このように両辺に文字が含まれる場合、むやみに両辺を引いたり、辺々を割ったりしないようにしましょう。
辺々を引く、辺々を割る:各辺の大小関係が分かっていても、むやみに式変形しない。確実に成り立つ条件がない限り、やってはいけない。原則、式変形しない方針で。
さいごに
ここで挙げた不等式の式変形は、数学2や数学Bではよく用いるようになります。やって良いことと悪いことをしっかり認識して、正しく式変形を行いましょう。
1⃣ 1つの不等式を式変形する場合
① 両辺の逆数をとる
条件「両辺が同符号か異符号か」によって不等号の向きが変わる。
② 両辺を平方する、両辺の平方根をとる
条件「平方するものがともに正」を満たせば、不等号の向きはそのままでよい。
2⃣ 2つの不等式を式変形する場合
③ 辺々を加える
不等号の向きを揃えれば、辺々加えてよい。不等号の向きはそのまま。
④ 辺々を掛ける
条件「各辺がすべて正」を満たせば、辺々掛けてよい。不等号の向きはそのまま。
⑤ 辺々を引く、辺々を割る
確実な条件がない限り、原則、やらない。
知っていることとそれを使えることは別物です。知識を持っていることは大切ですが、それを適切に運用できるレベルにしておかなければなりません。ぜひ、使いこなせるレベルまで仕上げましょう。
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