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式と証明|不等式の式変形でやってよいこと、やってはいけないことについて

数学2

数学2 式と証明

今回は、不等式を変形するとき、やってよいこと、やってはいけないことについて学習しましょう。

等式と違って、不等式は基本的に大小関係のある式です。ですから、等式よりも注意して扱う必要があります。

特に、文字を含む不等式であれば、大小関係がわかりにくくなります。ですから、気付かないうちに誤った式変形をすることがあります。

式変形でやってよいこと、やってはいけないことをしっかり理解しておくことが大切です。

不等式の変形

不等式の変形については、数学1の単元ですでに学習しています。

例えば、1つの不等式について、以下のような式変形が可能です。

  • 両辺にcを加える、または両辺からcを引く ⇒ 不等号の向きはそのまま
  • 両辺にcを掛ける、または両辺をcで割る ⇒ cの符号によって不等号の向きが変わる

これらは不等式の基本的な性質です。これらを踏まえて式変形をするわけですが、両辺が文字を含む式になると正負が分かりにくくなるので、油断すると間違えてしまいます。

これから、不等式の式変形でやってよいこと、やってはいけないことをいくつか紹介します。

ここでの「やってよいこと」とは、式変形しても不等式が成り立つことで、条件によって結果が異なることがあっても規則性のあるものです。

また、「やってはいけないこと」とは、式変形によって不等号が成り立たなくなることで、規則性のないものです。想定している式変形は、以下の事柄です。

想定している式変形

  • 1つの不等式を式変形する場合
    • 両辺の逆数をとる
    • 両辺を平方する、両辺の平方根をとる
  • 2つの不等式を式変形する場合
    • 辺々を加える
    • 辺々を掛ける
    • 辺々を引く、辺々を割る

1つの不等式を式変形する場合

1つの不等式を式変形する場合です。この場合、両辺の逆数をとる変形や、両辺を平方する、両辺の平方根をとる変形をすることがあります。

両辺の逆数をとる

両辺の逆数をとる」という変形は、等式でもよく用いられます。等式では何も問題ありませんが、不等式では気を付けましょう。不等式では、両辺の符号の組合せ(同符号か異符号か)によって結果が異なります

まず、不等式の両辺が同符号のときです。

不等式の両辺が同符号のとき

a , b が同符号のとき

a>b  1a<1b

例)不等号の向きが変わる

10>7  110<175>13  15<113

両辺が同符号のとき、逆数をとると絶対値の大小関係が逆転します。ですから、もとの大小関係とは逆になり、不等号の向きが変わります

次に、不等式の両辺が異符号のときです。

不等式の両辺が異符号のとき

a , b が異符号のとき

a>b a>0 , b<0 1a>0 , 1b<0 1a>1b

例)不等号の向きは変わらない

5>7  15>17

両辺が異符号のとき、逆数をとっても正の数は正の数のままで、負の数は負の数のままです。もとから正負の違いがあるので、大小関係は変わらず、不等号の向きは変わりません

両辺の逆数をとる:両辺が同符号か異符号かによって結果が異なる。条件「両辺が同符号か異符号か」を確認しよう。

不等式の式変形では、不等号の向きを間違うことが多いですが、例のように具体的な数を用いて考えると、些細なミスを事前に防ぐことができます。特に、負の数どうしだとよく間違えるので注意しましょう。

両辺を平方する、両辺の平方根をとる

両辺を平方する、両辺の平方根をとる」という変形も、等式であれば問題ありませんが、不等式では注意する必要があります。

両辺を平方したり、両辺の平方根をとるには、平方するものがともに正であれば、不等号の向きはそのままで変わりません。

不等式の両辺を平方する、両辺の平方根をとる

a>0 , b>0 のとき

a>b  a2>b2

例) 平方根の正負が不明

5>3

ならば

25>9

は成り立つが、a , b の正負が不明のとき

9 の平方根が ±325 の平方根が ±5 より

a2>b2  a>b

が成り立つとは一概に言えない。

なお、両辺の平方根をとるとき、平方根(平方するもの)の正負が分からなければ、不等号の向きが決まらないので注意しましょう。

また、平方するものが負であったり、両辺が異符号であったりすると、両辺を平方したとき不等号の向きは変わったり、変わらなかったりします。

平方根(平方するもの)の正負が不明のとき

例)不等号の向きに規則性がない

5>3

ならば

25>9

また

3>5

ならば

9<25

平方根をとるときも同様で、先ほどと同じように平方根(平方するもの)の正負が分からなければ、不等号の向きが決まりません。

両辺を平方する、両辺の平方根をとる:平方するものがともに正であれば、不等号はそのままで良い。条件「平方するものがともに正」を確認しよう。

2つの不等式を式変形する場合

辺々を加える

辺々を加えるとは、左辺どうし、右辺どうしを足し算することです。

2つの不等式について、辺々を加えるには不等号が同じ向きに揃っていることが条件です。この条件を守っていれば、辺々を加えても不等号の向きは変わりません

辺々を加える

a>b , c>d ならば

a+c>b+d

例)不等号の向きが変わらない

7>2 , 5>1

ならば

7+5>2+1

すなわち

12>3

また

5>13 , 5>1

ならば

5+5>13+1

すなわち

0>12

両辺が同符号か異符号かにかかわらず、不等号の向きを揃えておけば、辺々を加えても構いません

辺々を加える:不等号の向きを揃えて、辺々を加えて良い。不等号の向きが揃っていれば問題なし。

辺々を掛ける

2つの不等式について、辺々を掛けるには各辺がすべて正であることが条件です。この条件があれば、辺々を掛けても不等号の向きが変わりません

辺々を掛ける

a>b >0_ , c>d >0_ ならば

ac>bd

例)不等号の向きが変わらない

7>2 (>0) , 5>1 (>0)

ならば

7×5>2×1

すなわち

35>2

例)条件に合わないと規則性がない

5>7 , 2>3

ならば

5×2=107×(3)=21

より

10<21

各辺がすべて正でなければ、不等号の向きが変わったり、変わらなかったりします。つまり、その時々によって結果が異なり、規則性がありません

辺々を掛ける:各辺がすべて正であれば、辺々を掛けて良い。条件「各辺がすべて正」を確認しよう。

辺々を引く、辺々を割る

2つの不等式について、辺々を引いたり、辺々を割ったりすると、ほとんどの場合で不等式が成り立ちません。ですから、これらの式変形はやってはいけません。

辺々を引く、辺々を割る

a>b , c>d

という条件だけで

ac>bdac>bd

といった式変形はやってはいけない。

例)

7>2 , 5>0

のとき、辺々引くと

75=220=2

となる。

また、辺々割ると

75=1.420

となる。

いずれにしても不等式が成り立たないことがある。

両辺が同じ値になれば、不等式ではなく等式になってしまいます。

また、0で割る割り算はできません。仮に0でなかったとしても、不等号の向きがその時々で変わり、規則性がありません。

このように両辺に文字が含まれる場合、むやみに両辺を引いたり、辺々を割ったりしないようにしましょう。

辺々を引く、辺々を割る:各辺の大小関係が分かっていても、むやみに式変形しない。確実に成り立つ条件がない限り、やってはいけない。原則、式変形しない方針で。

さいごに

ここで挙げた不等式の式変形は、数学2や数学Bではよく用いるようになります。やって良いことと悪いことをしっかり認識して、正しく式変形を行いましょう。

1⃣ 1つの不等式を式変形する場合

① 両辺の逆数をとる

条件「両辺が同符号か異符号か」によって不等号の向きが変わる。

② 両辺を平方する、両辺の平方根をとる

条件「平方するものがともに正」を満たせば、不等号の向きはそのままでよい。

2⃣ 2つの不等式を式変形する場合

③ 辺々を加える

不等号の向きを揃えれば、辺々加えてよい。不等号の向きはそのまま。

④ 辺々を掛ける

条件「各辺がすべて正」を満たせば、辺々掛けてよい。不等号の向きはそのまま。

⑤ 辺々を引く、辺々を割る

確実な条件がない限り、原則、やらない。

知っていることとそれを使えることは別物です。知識を持っていることは大切ですが、それを適切に運用できるレベルにしておかなければなりません。ぜひ、使いこなせるレベルまで仕上げましょう。

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