数と式|一次不等式を扱った応用問題を解いてみよう その1(立式の基本)
一次不等式を扱った応用問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
第1問の解答・解説
第1問
$1$ 個 $120$ 円のケーキと $1$ 個 $80$ 円のプリンを合わせて $20$ 個買い、代金を $2000$ 円以内にしたい。ケーキは最大何個まで買えるか。
まずは一読して求める数量が何かを探しましょう。求める数量は文章の最後に提示してあることがほとんどです。また、文章中からヒントを見つけます。
文章中のヒント
- 求める数量:ケーキの最大個数
- ヒント1:ケーキとプリンを合わせて20個(単位は個数)
- ヒント2:支払う代金は 2000円以内(単位は円)
第1問では、ケーキの最大個数を求めたいので、ケーキの個数の範囲を求めれば良さそうです。購入するケーキの個数をx個とします。
また、文章中に「代金が2000円以内」とありますが、言い換えると、「代金が2000円以下」ということです。「~以下」という言い回しが出てきたので、不等式で立式しようと方針が立ちます。
式の形
(支払う代金)$\leqq \ 2000$
式の形が決まったので、部分的に見ていきます。左辺は「ケーキとプリンを購入した代金」です。
ケーキとプリンの1個の値段が異なるので、代金を別々に求める必要があります。ですから、左辺の支払う代金は、ケーキとプリンの代金の和で表されます。
左辺
(支払う代金)$=$(ケーキの代金)$+$(プリンの代金)
ケーキを買う個数をx個とすると、ケーキの代金を求めることができます。それに対して、プリンの個数はまだ分かっていません。
そこで、「ケーキとプリンを合わせて20個」というヒントを利用して求めます。
プリンの個数
(ケーキの個数)$+$(プリンの個数)$=20$
より
(プリンの個数)$=20-$(ケーキの個数)
ケーキとプリンの個数の関係から、プリンの個数はケーキの個数xを用いて(20-x)個と表されます。
ケーキとプリンの1個の値段はすでに与えられているので、それぞれの代金を求めることができます。そして代金の和を取れば、支払った代金になります。
支払った代金
ケーキの個数を $x$ とすると、代金は
\begin{align*} \quad 120 \times x=120x \quad \text{(円)} \end{align*}また、プリンの個数は
\begin{align*} \quad \left(20-x \right) \quad \text{(個)} \end{align*}となるので、代金は
\begin{align*} \quad 80 \times \left(20-x \right)=80\left(20-x \right) \quad \text{(円)} \end{align*}よって、支払う代金は
\begin{align*} \quad 120x+80\left(20-x \right) \quad \text{(円)} \end{align*}支払う代金が2000円以下になれば良いので、不等式で立式します。
不等式で立式する
支払う代金は $2000$ 円以内なので
\begin{align*} \quad 120x+80\left(20-x \right) \leqq 2000 \end{align*}立式すると、xについての一次不等式を導出できました。この不等式の解がxの取りうる値の範囲、すなわちケーキの個数の取り得る範囲です。範囲の最大値がケーキの最大個数です。
ヒントの読み取りから立式までの流れをまとめると以下のようになります。
また、第1問のポイントと解答例をまとめると以下のようになります。
暗黙の条件に注意しよう
解を求めた後に注意したいのが、文章中に明記されない暗黙の条件です。
第1問では必要ありませんでしたが、たとえば、個数であれば「自然数」という条件が存在しています。このような条件が解の吟味に必要なときがあります。
扱う数量によって、文章中に明記されていない暗黙の条件が存在するので注意しよう。
第2問の解答・解説
第2問
ある数に $5$ を加えて $2$ 倍すると $16$ より大きくなる。また、$6$ からある数を引き、それを $2$ 倍すると $4$ より大きくなる。ある数はどんな範囲の数か。
一読して求める数量が何かを探しましょう。また、文章中からヒントを見つけます。
文章中のヒント
- 求める数量:ある数の範囲
- ヒント1:ある数に5を加えて2倍すると16より大きい
- ヒント2: 6からある数を引き、それを2倍すると4より大きい
第2問では、「ある数の範囲」を求めたいので、ある数をxとおきます。
さらに、接続詞「また」に注目すると、ある数を使った計算の話が2つあることに気付きます。ある数を求めるためのヒントが2つあるということです。
大小関係の話なので、不等式で表すことができそうです。これで式の形が決まりました。不等式が2つできることが分かります。
式の形
ヒント1から
ある数に $5$ を加えて $2$ 倍した後の数)$\gt \ 16$
ヒント2から
($6$ からある数を引き、それを $2$ 倍した後の数)$\gt \ 4$
式の形が決まったので、部分的に見ていきます。ヒント1,2の左辺に注目します。
ここで、注意したいのは計算の順序です。どちらのヒントでも、2倍するのは加算や減算した後の数に対してです。
ヒント1では、ある数xに5を加えるので、(x+5)という数になります。この数(x+5)を2倍します。ヒント2では、6からある数xを引くので、(6-x)という数になります。この数(6-x)を2倍します。
左辺の立式
ヒント1の左辺
ある数 $x$ に $5$ を加えると
\begin{align*} \quad x+5 \end{align*}これを $2$ 倍するので
\begin{align*} \quad \left(x+5 \right) \times 2 \end{align*}ヒント2の左辺
$6$ からある数 $x$ を引くと
\begin{align*} \quad 6-x \end{align*}これを $2$ 倍するので
\begin{align*} \quad \left(6-x \right) \times 2 \end{align*}加算や減算した後の数は多項式になり、この多項式を2倍しなければなりません。
多項式をカッコでくくっておかないと、計算の意味や順序が変わってしまいます。xだけを2倍したり、5だけを2倍したりしないように注意しましょう。
計算の意味や順序が変わる例
ヒント1の左辺の間違い
\begin{align*} \quad x + 5 \times 2 \end{align*}⇒ $x$ に、$5$ を $2$ 倍して加える(加えた数)
ヒント2の左辺の間違い
\begin{align*} \quad 6 \ – x \times 2 \end{align*}⇒ $6$ から、$x$ を $2$ 倍して引く(引いた数)
ヒント1,2について、それぞれ不等式で立式します。
不等式で立式する
ある数 $x$ に $5$ を加えると
\begin{align*} \quad x+5 \end{align*}これを $2$ 倍するので
\begin{align*} \quad \left(x+5 \right) \times 2 \end{align*}すなわち
\begin{align*} \quad 2\left(x+5 \right) \end{align*}これが$16$ より大きくなるので
\begin{align*} \quad 2\left(x+5 \right) \gt 16 \end{align*}$6$ からある数 $x$ を引くと
\begin{align*} \quad 6-x \end{align*}これを $2$ 倍するので
\begin{align*} \quad \left(6-x \right) \times 2 \end{align*}すなわち
\begin{align*} \quad 2\left(6-x \right) \end{align*}これが $4$ より大きくなるので
\begin{align*} \quad 2\left(6-x \right) \gt 4 \end{align*}ところで、ヒント1,2はある数を使った計算の話であるので、ある数xについてどちらも成り立たなければなりません。ですから、第2問は連立不等式の問題です。
連立不等式の解は、それぞれの不等式の解の共通部分です。これが求める数の範囲になります。
ヒントの読み取りから立式までの流れをまとめると以下のようになります。
第2問のポイントと解答例をまとめると以下のようになります。
ある数xの範囲は、自然数や整数などが含まれない範囲3<x<4となります。文章中には、自然数や整数などの条件がなく、また、それを明示する表現もありません。ですから、実数の範囲での話だと考えられます。
他にも一次不等式の文章問題を紹介しているので、ぜひチャレンジしてみましょう。
以下、余談です。
文章問題を解きこなすために
英作文では日本語を英語に置き換えています。それと同じことを数学でもやるだけです。
言葉を数式に翻訳するイメージです。そのためには、記号や数式の意味を言葉に置き換える訓練が必要です。
日頃の学習では、定義をしっかり覚えることを第一に、文言から数式化したり、数式を言語化したりすると良いでしょう。
読解力の有無も意外と関係がありそう
どの科目でも理解するための基礎になるのが、主に語彙力や読解力ではないでしょうか。
数学で言えば、語彙力は用語や記号などの定義を知っており、それを適切に使える力、読解力は数量の関係や問題の要求(求められている答え)などを読み取る力だと考えられます。
設問は日本語で書かれているわけですから、読めないわけではありません。それにも関わらず内容を理解できなかったり、誤読したりするのであれば、語彙力や読解力が足りない可能性があります。
何となく読めるではなく、設問の意図するものを正しく汲み取ることが本当の「読める」だと考えられます。
語彙力や読解力を付けるためには、解けない問題に出会ったとき、自分がどこで躓いているかを1つ1つ点検することが大切です。
躓きの中身を知らなければ、自分の足りない部分に気付けません。何となく分からないまま、解けないままだから、語彙力や読解力がいつまで経っても伸びないのかもしれません。
躓きは誰にでもありますが、そこでの対応の仕方でその後の伸びが変わってきます。
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著者が異なりますが、こちらも『総合的研究』シリーズです。
さいごに、もう一度まとめ
- 求めたい数量を文字xとおく。
- 文章中から立式のヒントになる言い回しを見つける。
- 式の形を決めるために、方程式か不等式かを決める。
- 式の形が決まったら、左辺や右辺の数量を細かく見ていく。
- 解いた後は、暗黙の条件がないか確認し、あればそれも考慮する。