式と証明|不等式の証明の拡張について

数学2

数学2 式と証明

今回は不等式の証明の拡張について学習しましょう。

ここでは、似た不等式がいくつか出てきます。この「似ている」というのがポイントです。

不等式の証明の拡張

1つ目に扱う不等式の証明では、基本通りに扱えば証明することは容易です。ただし、2つ目に扱う不等式の証明になると、基本通りに扱うには難しくなります。

では、どうすれば良いかと言うと、2つの不等式が似ていることに注目します。2つの不等式が似ているのは、1つ目の不等式を拡張したものが2つ目の不等式だからです。

このように似ていることに注目すると、2つ目の不等式が成り立つことを証明することができます。

不等式の証明の拡張を扱った例題を解いてみよう

次の例題を解いてみましょう。

例題

\begin{align*} &\text{$\left| a \right| \lt 1 \ , \ \left| b \right| \lt 1 \ , \ \left| c \right| \lt 1$ のとき、} \\[ 5pt ] &\text{次の不等式が成り立つことを証明せよ。} \\[ 5pt ] &(1) \quad ab+1 \gt a+b \\[ 7pt ] &(2) \quad abc+2 \gt a+b+c \end{align*}

例題(1)の解答・解説

例題(1)

\begin{align*} &\text{$\left| a \right| \lt 1 \ , \ \left| b \right| \lt 1 \ , \ \left| c \right| \lt 1$ のとき、} \\[ 5pt ] &\text{次の不等式が成り立つことを証明せよ。} \\[ 5pt ] &\quad ab+1 \gt a+b \end{align*}

(1)の不等式を証明しないと、(2)の不等式を証明するのが難しくなります。

基本通り、左辺と右辺の差を作ります。与えられた条件を活用できるように、上手に変形します。

例題(1)の解答例 1⃣

\begin{align*} \quad &\left(ab+1 \right) – \left(a+b \right) \\[ 7pt ] = \ &ab+1- a-b \\[ 7pt ] = \ &a \left(b-1 \right)- \left(b-1 \right) \\[ 7pt ] = \ &\left(a-1 \right) \left(b-1 \right) \end{align*}

a,bの値の範囲が条件として与えられています。それを利用して、式の値について吟味します。

例題(1)の解答例 2⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad = \left(a-1 \right) \left(b-1 \right) \\[ 7pt ] &\left| a \right| \lt 1 \ , \ \left| b \right| \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ] &\quad a -1 \lt 0 \\[ 7pt ] &\quad b -1 \lt 0 \\[ 7pt ] &\text{であるので} \\[ 5pt ] &\quad \left(a-1 \right) \left(b-1 \right) \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{すなわち} \\[ 5pt ] &\quad \left(ab+1 \right) – \left(a+b \right) \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{したがって} \\[ 5pt ] &\quad ab+1 \gt a+b \end{align*}

不等式が成り立つことを証明することができました。1つ目の不等式を証明するのは、基本を押さえておけばとても簡単です。

不等式の証明の基本は、左辺と右辺の差を求め、その正負を調べること

例題(1)において、左辺と右辺の差を変形しましたが、この式変形は頻出です。毎回、式変形をするのは面倒なので覚えておくと良いでしょう。

覚えておきたい式変形

\begin{align*} &ab- a-b+1 \\[ 7pt ] = \ &\left(a-1 \right) \left(b-1 \right) \\[ 7pt ] = \ &\left(1-a \right) \left(1-b \right) \end{align*}

※与えられた条件に合わせて因数分解する

例題(2)の解答・解説

例題(2)

\begin{align*} &\text{$\left| a \right| \lt 1 \ , \ \left| b \right| \lt 1 \ , \ \left| c \right| \lt 1$ のとき、} \\[ 5pt ] &\text{次の不等式が成り立つことを証明せよ。} \\[ 5pt ] &\quad abc+2 \gt a+b+c \end{align*}

(2)の不等式は、(1)の不等式によく似ています。2文字から3文字に拡張されたのが(2)の不等式です。このように拡張された不等式の証明では、先に証明した結果を利用します。

結果を利用することは難しくありませんが、その後の不等式の扱いなどが難しくなります。実際に解いて手順を押さえておきましょう。

a,bの2文字からa,b,cの3文字になってしまったので、何とか2文字の関係を当てはめられないかを考えます。

そこでabを1文字として扱います。abを1文字扱いするので、abの条件が必要になります。

例題(2)の解答例 1⃣

\begin{align*} &\left| a \right| \lt 1 \ , \ \left| b \right| \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ] &\quad \left| ab \right| \lt 1 \end{align*}

これで、abとcについて(1)の結果を利用することができます。

例題(2)の解答例 2⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad \left| ab \right| \lt 1 \\[ 7pt ] &\left| ab \right| \lt 1 \ , \ \left| c \right| \lt 1 \ \text{と $(1)$ の結果から} \\[ 5pt ] &\quad (ab)c +1 \gt ab + c \\[ 7pt ] &\text{よって} \\[ 5pt ] &\quad abc +1 \gt ab + c \end{align*}

abを1文字に見立てたことで、(1)の結果を利用することができました。しかし、与式が成り立つことを証明できたわけではありません。

両辺ともに与式とは異なります。まず、左辺を与式の左辺に揃えます。

例題(2)の解答例 3⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad abc +1 \gt ab + c \\[ 7pt ] &\text{両辺に $1$ を加えて} \\[ 7pt ] &\quad abc +2 \gt ab + c+1 \quad \cdots \text{①} \end{align*}

ここで、①式の右辺に注目します。ab+1は(1)に出てきました。(1)の両辺にcを加えると、①式の右辺と同じ式を作れます。

例題(2)の解答例 3⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad abc +2 \gt ab + c+1 \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ] &\text{また、$(1)$ の両辺に $c$ を加えて} \\[ 5pt ] &\quad ab+1 + c \gt a+b + c \quad \cdots \text{②} \end{align*}

①式の右辺と②式の左辺が共通です。これより、①,②式を1つの不等式にまとめることができます。

例題(2)の解答例 4⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad abc +2 \gt ab + c+1 \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ] &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad ab+1 + c \gt a+b + c \quad \cdots \text{②} \\[ 7pt ] &\text{①,②より} \\[ 5pt ] &\quad abc +2 \gt ab + c+1 \gt a+b + c \\[ 7pt ] &\text{であるので} \\[ 5pt ] &\quad abc +2 \gt a+b + c \end{align*}

(1)の結果を、次の不等式の証明に利用しています。難しく感じるかもしれませんが、差を作る解法よりも簡潔な答案を作成することできます。

例題(2)の別解例

基本的な解法を用いて、(2)を解いてみましょう。左辺と右辺の差をつくり、証明しやすい形に変形します。

例題(2)の別解例 1⃣

\begin{align*} \quad &\left(abc+2 \right) – \left(a+b+c \right) \\[ 7pt ] = \ &abc-a +2 -b-c \\[ 7pt ] = \ &a \left(bc -1 \right)+2 -b-c \quad \cdots \text{①} \end{align*}

①式の値の正負を吟味します。1番目の項a(bc-1)に注目します。

例題(2)の別解例 2⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad = a \left(bc -1 \right)+2 -b-c \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ] &\left| b \right| \lt 1 \ , \ \left| c \right| \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ] &\quad \left| bc \right| \lt 1 \\[ 7pt ] &\text{よって} \\[ 5pt ] &\quad bc-1 \lt 0 \end{align*}

1番目の項について、カッコ内の式bc-1の符号は定まることが分かりました。しかし、aの符号が定まらないので、項全体の符号が定まりません。ここをどう扱うかが別解例のポイントになります。

条件を利用して、1番目の項を導きます。

例題(2)の別解例 3⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad bc-1 \lt 0 \\[ 7pt ] &\text{ここで、$\left| a \right| \lt 1$ であるので} \\[ 5pt ] &\quad a \lt 1 \\[ 7pt ] &\text{この両辺に $bc-1 \ (\lt 0)$ を掛けると} \\[ 5pt ] &\quad a \left(bc -1 \right) \gt 1 \cdot \left(bc -1 \right) \\[ 7pt ] &\text{よって} \\[ 5pt ] &\quad a \left(bc -1 \right) \gt bc -1 \quad \cdots \text{②} \end{align*}

aの条件を用いて、新たな不等式②を導くことができました。言われれば分かりますが、この不等式②を導くのは、別解例の中で最も難しいかもしれません。

また、②式を導くとき、両辺に負の値bc-1を掛けるので、符号の向きに注意しましょう。

式の値の正負を知りたい①式になるように、②式を変形します。

例題(2)の別解例 4⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad = a \left(bc -1 \right)+2 -b-c \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ] &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad a \left(bc -1 \right) \gt bc -1 \quad \cdots \text{②} \\[ 7pt ] &\text{②の両辺に $2-b-c$ を加えて} \\[ 5pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt bc -1+2-b-c \\[ 7pt ] &\text{右辺を整理すると} \\[ 5pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt bc-b-c+1 \\[ 7pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt -b\left(1-c \right)+\left(1-c \right) \\[ 7pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt \left(1-b \right) \left(1-c \right) \quad \cdots \text{③} \end{align*}

③式の左辺が①式です。③式の右辺に注目します。与えられた条件から、右辺の符号が定まることを利用します。

例題(2)の別解例 5⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad = a \left(bc -1 \right)+2 -b-c \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ] &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt \left(1-b \right) \left(1-c \right) \quad \cdots \text{③} \\[ 7pt ] &\left| b \right| \lt 1 \ , \ \left| c \right| \lt 1 \ \text{より} \\[ 5pt ] &\quad 1-b \gt 0 \ , \ 1-c \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{であるので} \\[ 5pt ] &\quad \left(1-b \right) \left(1-c \right) \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{よって} \\[ 5pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt \left(1-b \right) \left(1-c \right) \gt 0 \end{align*}

③式の右辺が0よりも大きいことが分かりました。この結果から、右辺よりも大きい左辺(①式)も0より大きくなります。

①式は、与式の左辺と右辺の差です。差の正負から、与式に戻します。

例題(2)の別解例 6⃣

\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt \left(1-b \right) \left(1-c \right) \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{これより} \\[ 5pt ] &\quad a \left(bc -1 \right)+2-b-c \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{すなわち} \\[ 5pt ] &\quad \left(abc+2 \right) – \left(a+b+c \right) \gt 0 \\[ 7pt ] &\text{したがって} \\[ 5pt ] &\quad abc+2 \gt a+b+c \end{align*}

別解に挙げた、差による証明では、1番目の項をどのように扱うかが問題になります。上手く処理しないと、式の値の正負を吟味できません。

等式の証明よりも不等式の証明の方が難しく感じます。そう感じるのは、状況によっては自分で新たな条件となる不等式を導く必要があるからです。ここは技術的な問題なので、演習をしっかりこなしてマスターしておきましょう。

次は、不等式の証明の拡張を扱った問題を実際に解いてみましょう。