数学2
不等式の証明の拡張を扱った問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
問
\begin{align*}
&\text{$a \geqq 2 \ , \ b \geqq 2 \ , \ c \geqq 2 \ , \ d \geqq 2$ のとき、} \\[ 5pt ]
&\text{次の不等式が成り立つことを証明せよ。} \\[ 5pt ]
&(1) \quad ab \geqq a+b \\[ 7pt ]
&(2) \quad abcd \geqq a+b+c+d
\end{align*}
(1),(2)の不等式を見比べると、式の形がよく似ていることに気付きます。
(1)は(2)を解くための布石となる問題です。(2)を意識しながら(1)を解きましょう。
問(1)の解答・解説
問(1)
\begin{align*}
&\text{$a \geqq 2 \ , \ b \geqq 2 \ , \ c \geqq 2 \ , \ d \geqq 2$ のとき、} \\[ 5pt ]
&\text{次の不等式が成り立つことを証明せよ。} \\[ 5pt ]
&\quad ab \geqq a+b
\end{align*}
左辺と右辺の差を作って、大小を比較します。
問(1)の解答例 1⃣
\begin{align*}
\quad &ab -\left(a+b \right) \\[ 7pt ]
= \ &ab-a-b \\[ 7pt ]
= \ &ab-a-b+1-1 \\[ 7pt ]
= \ &\left(a-1 \right)\left(b-1 \right)-1
\end{align*}
左辺と右辺の差を変形して得られた式の値を吟味します。与えられたa,bの条件を利用します。
問(1)の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(a-1 \right)\left(b-1 \right)-1 \\[ 7pt ]
&\text{ここで、$a \geqq 2 \ , \ b \geqq 2$ より} \\[ 5pt ]
&\quad a-1 \geqq 1 \ , \ b-1 \geqq 1 \\[ 7pt ]
&\text{であるので} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-1 \right)\left(b-1 \right) \geqq 1 \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a-1 \right)\left(b-1 \right)-1 \geqq 0
\end{align*}
この結果から、左辺と右辺の差の符号が分かります。
問(1)の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad ab -\left(a+b \right) \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad = \left(a-1 \right)\left(b-1 \right)-1 \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \left(a-1 \right)\left(b-1 \right)-1 \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{すなわち} \\[ 5pt ]
&\quad ab -\left(a+b \right) \geqq 0 \\[ 7pt ]
&\text{したがって} \\[ 5pt ]
&\quad ab \geqq a+b
\end{align*}
(1)の不等式の証明は、基本通りの解法で容易に証明できます。
問(2)の解答・解説
問(2)
\begin{align*}
&\text{$a \geqq 2 \ , \ b \geqq 2 \ , \ c \geqq 2 \ , \ d \geqq 2$ のとき、} \\[ 5pt ]
&\text{次の不等式が成り立つことを証明せよ。} \\[ 5pt ]
&\quad abcd \geqq a+b+c+d
\end{align*}
(2)の不等式は、文字の種類が異なりますが、(1)と似ています。(1)の結果を上手く利用することを考えましょう。
そうは言っても、a,bの2文字から、a,b,c,dの4文字の不等式へと拡張されています。難易度が上がっているので注意しましょう。
いきなり4文字の不等式を扱うのではなく、(1)の結果を利用して、a,bだけの不等式と、c,dだけの不等式を導きます。
問(2)の解答例 1⃣
\begin{align*}
&(1) \ \text{の結果から} \\[ 5pt ]
&\quad ab \geqq a+b \ , \ cd \geqq c+d \quad \cdots \text{①}
\end{align*}
不等式の性質を利用します。①式を用いて、与式と共通の左辺をもつ不等式を導きます。
問(2)の解答例 2⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \geqq a+b \ , \ cd \geqq c+d \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ]
&\text{ここで} \\[ 5pt ]
&\quad a+b \geqq 4 \gt 0 \ , \ c+d \geqq 4 \gt 0 \\[ 7pt ]
&\text{であるので、①より} \\[ 5pt ]
&\quad ab \cdot cd \geqq \left(a+b \right) \left(c+d \right) \\[ 7pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad abcd \geqq \left(a+b \right) \left(c+d \right) \quad \cdots \text{②}
\end{align*}
与式の左辺をもつ不等式②を導くことができました。
②式の右辺に注目すると、二項式の積になっています。各二項式をそれぞれ1文字に見立てると、(1)の結果を利用することができます。
問(2)の解答例 3⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad ab \geqq a+b \ , \ cd \geqq c+d \quad \cdots \text{①} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad abcd \geqq \left(a+b \right) \left(c+d \right) \quad \cdots \text{②} \\[ 7pt ]
&\text{さらに} \\[ 5pt ]
&\quad a+b = X \ , \ c+d = Y \\[ 7pt ]
&\text{とおくと} \\[ 5pt ]
&\quad X \geqq 4 \gt 2 \ , \ Y \geqq 4 \gt 2 \\[ 7pt ]
&\text{であるので、(1)より} \\[ 5pt ]
&\quad XY \gt X+Y \\[ 7pt ]
&\text{ただし、$(1)$ の不等式は成り立つが} \\[ 5pt ]
&\text{等号は成り立たない。} \\[ 5pt ]
&\text{よって} \\[ 5pt ]
&\quad \left(a+b \right) \left(c+d \right) \gt \left(a+b \right)+\left(c+d \right) \\[ 7pt ]
&\quad \left(a+b \right) \left(c+d \right) \gt a+b + c+d \quad \cdots \text{③}
\end{align*}
ところで、(1)の不等式において、等号が成り立つのは、a=b=2のときです。それに対して、X,Yは4以上であるので、2よりも必ず大きくなります。
このことを踏まえると、(1)の結果を利用したとしても等号は成り立ちません。解答例3⃣ではそのことに言及しています。(1)の大小関係は成り立ちますが、等号が成り立たないことに注意しましょう。
②式の右辺と③式の左辺が共通になりました。これらを1つの不等式にまとめて、与式を導きます。
問(2)の解答例 4⃣
\begin{align*}
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad abcd \geqq \left(a+b \right) \left(c+d \right) \quad \cdots \text{②} \\[ 7pt ]
&\quad \vdots \\[ 7pt ]
&\quad \left(a+b \right) \left(c+d \right) \gt a+b + c+d \quad \cdots \text{③} \\[ 7pt ]
&\text{②,③より} \\[ 10pt ]
&\quad abcd \geqq \left(a+b \right) \left(c+d \right) \gt a+b+c+d \\[ 10pt ]
&\text{よって} \\[ 10pt ]
&\quad abcd \gt a+b+c+d
\end{align*}
なお、解答例2⃣において、②式を導くときに利用したのは不等式の性質です。
不等式の性質
\begin{align*}
&A \geqq B \gt 0 \ , \ C \geqq D \gt 0 \ \text{のとき} \\[ 5pt ]
&\quad AC \geqq BD
\end{align*}
また、②,③式から得られる不等式についても、不等式の性質を用いて導くことができます。
覚えておきたい不等式の性質
\begin{align*}
&A \geqq B \ , \ B \gt C \ \text{ならば} \\[ 5pt ]
&\quad A \gt C
\end{align*}
結果を利用すること自体に問題ありませんが、結果から得られる不等式の扱い方を知らないと、その後の処理に差が出ます。手順を大まかにまとめると、以下のようになります。
不等式の証明の拡張の手順
- 与式(A>B)を導くために、すでに証明された結果を利用する。
- 結果から得られた不等式を用いて、左辺を与式に揃える(A>Cを導く)。
- 右辺に注目して、与式の右辺を導く(C>Bを導く)。
- 2つの不等式をまとめて、与式を導く(A>Bを導く)。
問題によっては細部が異なるかもしれませんが、大まかな手順は上述の通りです。
また、式変形もそれぞれ異なります。できるだけ演習をこなして、自分なりに手順をまとめておくと良いでしょう。
等式の証明よりも、不等式の証明の方が難しいので、自分なりに手順をまとめておこう。
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- おわりに
- 特別コラム
さいごにもう一度まとめ
- 似た不等式の証明では、すでに証明した結果を利用しよう。
- 結果から得られた不等式を用いて、与式と共通の左辺をもつ不等式を導こう。
- さらに与式と共通の右辺をもつ不等式を導こう。
- 導いた2つの不等式を1つにまとめて、与式を導こう。
- 文字の種類が増えても慌てず、1文字に見立てるなど工夫しよう。