数と式|一次不等式を扱った応用問題を解いてみよう その2(絶対値)
前回の「一次不等式を扱った応用問題を解いてみよう」のその2です。今回は絶対値を含む不等式です。
「数と式」の単元に出てくる絶対値の扱いに苦労する人が意外と多いです。最初の単元で躓いてしまうと、モチベーションにかなり影響があるかもしれません。そんな状況にしないために、躓くたびに戻って確認しましょう。
絶対値を含む不等式を復習しつつ、応用問題を解いてみましょう。
絶対値を含む不等式の扱い方
絶対値を含む不等式では、基本的に以下のような手順で式を扱います。
絶対値を含む不等式の扱い方
- 絶対値の記号を外す。
- 一次不等式を解いて解を求める。
絶対値は、ある数に対応する点と原点との距離を表します。距離は、基準と比べて大きいや小さいなどと比較した相対的な値ではなく、比較対象を必要としない絶対的な値です。
絶対値は、もともとは距離を表すものだったのが、派生して大きさとして全般的に使われることがよくあります。
絶対値を距離とイメージするのが難しいときは、絶対的な値で「大きさ=正の値」とイメージしよう。
このような定義や意味をもつ絶対値ですが、その記号を見かけたら、式に関わらず絶対値の記号を外しましょう。絶対値の記号は数や式の値を距離(大きさ)として扱うことを示す記号なので、式変形では邪魔になるからです。
絶対値の記号を外してしまえば、ただの不等式にすぎません。とにかく絶対値の記号を見かけたらすぐに外してしまいましょう。
絶対値を扱った不等式(基本編)
絶対値の定義を利用する
絶対値を扱った不等式の中で最も基本的なものは、次のような2項からなる不等式です。絶対値の記号の付いていない項が定数となっています。
絶対値を扱った不等式(基本編)
\begin{align*} &\quad \left| x \right| \gt 5 \\[ 7pt ] &\quad \left| x \right| \lt 5 \end{align*}不等式の意味を絶対値の定義と合わせて考えてみましょう。
絶対値を含む不等式
$\left| x \right| \gt 5$ …「$x$ の絶対値が $5$ より大きい」
$\left| x \right| \lt 5$ …「$x$ の絶対値が $5$ より小さい」
読み取った内容から、不等式の解は、原点からの距離(絶対値)が5よりも大きいxの値の範囲や、5よりも小さいxの値の範囲であることが分かります。
このような絶対値を扱った基本的な不等式では、式を解くと言うよりも、絶対値の定義から式の意味を考えて解くと言った方が適切かもしれません。
絶対値を原点からの距離で考えるときは数直線で視覚化しよう。
絶対値の定義を利用するときは数直線を書く
絶対値の定義を考えるとき、数直線を利用します。数直線から分かるように、不等式を満たすxには、原点を挟んで正の数と負の数の2つがあります。
絶対値の記号を外すとき、一般に、絶対値に挟まれた数が正の数か負の数かを場合分けします。しかし、数直線を利用すれば、場合分けなしで済みます。
数直線を利用して絶対値の記号を外す
- (正の数のとき)=(数直線では原点より正の向きのとき)
- (負の数のとき)=(数直線では原点より負の向きのとき)
数直線では、正負両方を合わせて扱えるので場合分けしなくて済む。
数直線を利用すると、例の不等式の解はそれぞれ以下のようになります。
場合分けなしで絶対値を含む不等式を解く
\begin{align*} \quad \left| x \right| \gt 5 \end{align*}これは、$x$ の絶対値が $5$ より大きいことを表すので
\begin{align*} \quad x \lt -5 \ , \ 5 \lt x \end{align*}と表せる。また
\begin{align*} \quad \left| x \right| \lt 5 \end{align*}これは、$x$ の絶対値が $5$ より小さいことを表すので
\begin{align*} \quad -5 \lt x \lt 5 \end{align*}と表せる。
このように数直線を利用することで簡単に解を求めることができます。一般には次のように表せます。
絶対値を含む不等式の基本形とその解
$k \gt 0$( $k$ は定数)であるとき
\begin{align*} \quad \left| x \right| \gt k \end{align*}の解は
\begin{align*} \quad x \lt -k \ , \ k \lt x \end{align*}また
\begin{align*} \quad \left| x \right| \lt k \end{align*}の解は
\begin{align*} \quad -k \lt x \lt k \end{align*}上述の不等式は、最も基本となる式です。この形に帰結させることが多いので、すぐに解を求めることができるようにしておきましょう。
これまでをまとめると以下のようになります。
絶対値を扱った不等式(応用編)
次の不等式を解いてみましょう。絶対値を扱った不等式の中では応用的な部類に入ります。
絶対値を扱った不等式(応用編)
\begin{equation*} \quad \left| x \right| \lt -2x+3 \end{equation*}注目したいのは、左辺の項が定数項ではないことです。
絶対値の記号が付いていない項を見て、定数かどうかを確認しよう。
このような形では、絶対値が特定の値より大きいのか小さいのか定まらないので、原点からの距離を考えることができません。このような式では、場合分けをして絶対値の記号を外す必要があります。
絶対値の記号は2通りの場合分けで外します。
数直線を利用して絶対値の記号を外す
- 絶対値の中の数が0以上のとき(0または正の数のとき)⇒絶対値の記号を外すだけ
- 絶対値の中の数が0より小さいとき(負の数のとき)⇒記号を外して、マイナスの符号をつける
場合分けに従って、絶対値の記号を外してみます。
場合分けして、絶対値を含む不等式を解く
$x \geqq 0$ のとき
\begin{align*} \quad \left| x \right| &\lt -2x+3 \\[ 7pt ] \quad x &\lt -2x+3 \end{align*}$x \lt 0$ のとき
\begin{align*} \quad \left| x \right| &\lt -2x+3 \\[ 7pt ] \quad -x &\lt -2x+3 \end{align*}絶対値の記号を外した後は、一次不等式を解いて解を求めます。ここでは、絶対値を外した後の計算は省略しています。
これまでをまとめると以下のようになります。
絶対値を扱った不等式を解いてみよう
次の不等式を解いてみましょう。
問1の解答・解説
問1
次の不等式を解け。
\begin{equation*} \quad \left| x \right| \lt 3 \end{equation*}問1は、絶対値の項と定数項の2項からなる不等式です。基本的な形なので、数直線を利用すれば、場合分けなしで絶対値の記号を外せ、しかも解を求めることができます。
数直線を利用して不等式の解を求めます。xの絶対値が3より小さくなる範囲を求めれば良いことが分かります。そのような範囲は3と-3の間です。
問1の解答例
\begin{align*} \quad \left| x \right| \lt 3 \end{align*}$x$ の絶対値が $3$ より小さくなるので
\begin{align*} \quad -3 \lt x \lt 3 \end{align*}特に難しい不等式ではありません。問1のポイントと解答例をまとめると以下のようになります。
問2の解答・解説
問2
次の不等式を解け。
\begin{equation*} \quad \left| x \right| \gt 2 \end{equation*}問2も基本的な形です。数直線を利用して不等式の解を求めます。
xの絶対値が2より大きくなる範囲を求めれば良いことが分かります。そのような範囲は2より大きい範囲、または-2より小さい範囲です。
問2の解答例
\begin{align*} \quad \left| x \right| \gt 2 \end{align*}$x$ の絶対値が $2$ より大きくなるので
\begin{align*} \quad x \lt -2 \ , \ 2 \lt x \end{align*}問1と同じように解くことができます。問2のポイントと解答例をまとめると以下のようになります。
問1,2は、絶対値を扱った不等式の中で最も基本的なもの。確実に解けるようにしておこう。
問3の解答・解説
問3
次の不等式を解け。
\begin{equation*} \quad \left| x-2 \right| \geqq 3 \end{equation*}問3は、等号つきの不等号になっていますが、問2と似たような形の不等式です。ただし、絶対値の中が、単項式xから多項式x-2になっています。
しかし、少し工夫をすれば、第2問と同じ形にすることができます。たとえば、多項式x-2を1つの文字Xに置き換えます。
多項式を1つの文字(単項式)に置き換えることで、基本の形に書き換えることができる。
多項式x-2を1つの文字Xに置き換え、Xについての解を求めます。
問3の解答例 1⃣
\begin{align*} \quad \left| x-2 \right| \geqq 3 \end{align*}$x-2=X$ とおくと
\begin{align*} \quad \left| X \right| \geqq 3 \end{align*}$X$ の絶対値が $3$ 以上になるので
\begin{align*} \quad X \leqq -3 \ , \ 3 \leqq X \end{align*}絶対値の記号を外して、不等式の解を求めましたが、問3ではもう少し続きがあります。
Xに置き換えたので、得られた解はXについての解です。ですから、もとの多項式x-2に戻して、xについての解を求める必要があります。
文字Xに置き換えたのは、基本の形で解くため。実際に求めたいのは、文字xについての解。
もとの多項式x-2に戻した後は、xについての一次不等式を解いて解を求めます。これが求めたかった解になります。
問3の解答例 2⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad X \leqq -3 \ , \ 3 \leqq X \end{align*}ここで、$x-2=X$ より
\begin{align*} \quad x-2 \leqq -3 \ , \ 3 \leqq x-2 \end{align*}よって
\begin{align*} \quad x \leqq -1 \ , \ 5 \leqq x \end{align*}問3のポイントと解答例をまとめると以下のようになります。
問1~3は、絶対値を含む不等式の中では基本的な問題です。これらの類題もパターン化して解けるようにしておきましょう。
他にも一次不等式の文章問題を紹介しているので、ぜひチャレンジしてみて下さい。
Recommended books
大学進学を考えたとき、記述を重視した学習を日常的に行った方が良いでしょう。試験の難易度は、マーク形式よりも記述形式の方が高いからです。
また、記述では思考力や表現力などが必要で、それらを身に付けるのは一朝一夕には難しいことも理由の1つです。
記述の訓練は、基本的に教科書や参考書の例題を真似することから始まりますが、記号の使い分けや独特の表現などがあり、手探りで進めていくのは大変です。
そこでお勧めしたいのが以下の2冊です。記述の訓練に特化したテキストになります。
オススメその1
1冊目は『基礎からのジャンプアップノート 数学 記述式答案 書き方ドリル』で、数学に苦手意識のある人におすすめです。
数学Ⅰ+A+Ⅱ+Bの記述力の基礎力を固めるなら、まずはこのドリルから!!
問題編64ページ、別冊解答編32ページ
- 証明問題、場合分けの答案の書き方のコツがわかる
- 「なぞって理解する」書き込みノートだから、わかりやすい答案の書き方が覚えやすい
- 「例(手本)」→「Check!」→「練習問題」 まねる&繰り返すの流れで、記述力UP!
- 別冊「解答編」では、練習問題をくわしく解答
『基礎からのジャンプアップノート』は数学以外の科目にもあります。基礎レベルの内容を扱っており、ページ数も多くありません。日常学習での予習や復習に使い勝手が良いでしょう。
オススメその2
2冊目は『総合的研究 記述式答案の書き方ーー数学I・A・II・B』です。数学に苦手意識がなく、将来的に得意科目にしたい人向けです。
『総合的研究』シリーズは、チャート式やフォーカスゴールドなどと並んで有名な参考書で、数学以外の科目もあります。また、電子書籍でも出版されているので、持ち運びに苦労しないのもポイントが高いです。
この本のテーマは《伝える》ことです。私たちは、この本で、数学的に正当な思考・数学的な事実を、どうすれば文章にして他者に伝えられるか、懸命に説明しています。
ちょっとした言葉づかい、論理的な説明の順序、条件と命題の違いの意識、いろいろな文字の立場の理解・・・・・・きっと、読者の皆さんの考えを読み手に《伝える》ために、すぐ役立つはずです。
(中略)数学の答案作りとは、自分と読み手のあいだに小さいながらも数学の世界を築く作業です(抽象的な言い方ですが、数学的に正しい主張とは、常に完結した、バランスの取れた小宇宙です)。
自分の知性と読み手の知性、双方を信頼し、両者の思考をつなぎ、そこに確固たる数学的結論を創造する。この営みは、多くの中高生が考えているより、ずっとやりがいのあるものです。
この本を手に取られたあなたが、この本を通じて答案作成の方法を知り、そのたのしみに触れていただけることを祈ります。
それでは、《伝える》レッスンをはじめましょう!(まえがきより)
著者が異なりますが、こちらも『総合的研究』シリーズです。
さいごに、もう一度まとめ
- 絶対値の記号が付いていない残りの項に注目する。
- 残りの項が定数項だけのとき、数直線を利用して不等式を解く。
- 残りの項に文字を含む項があるとき、場合分けをして絶対値の記号を外し、不等式を解く。