数と式|整式の展開に関する問題を解いてみよう
整式の展開を扱った問題を解いてみよう
次の問題を解いてみましょう。
問
次の整式を展開せよ。
\begin{align*} &1. \quad \left(a-b+c \right)^2 \\[ 7pt ] &2. \quad \left(a+b-2 \right)\left(a+b+4 \right) \\[ 7pt ] &3. \quad \left(x-2 \right)^2 \left(x+2 \right)^2 \end{align*}基本的な問題で乗法公式に慣れたら次は応用問題です。応用レベルになると、様々な工夫が必要になります。
公式を上手く利用するための工夫
- 数種類の公式を利用する
- 公式を何度か利用する
- 与式を変形してから公式を利用する
与式に公式がそのまま当てはまらないことが多いので、乗法公式を利用できるように状況を自分で整える必要があります。
問1の解答・解説
問1
\begin{align*} \quad \left(a-b+c \right)^2 \end{align*}与式は、3項からなる多項式(3項式)を2乗した式です。
解法はいくつかあります。
自分の解きやすい解法を選択しよう
- 分配法則を利用して展開する
- 3項を2項に減らした後に乗法公式を用いて展開する(1番目の公式)
- 乗法公式を用いて展開する(5番目の公式)
仮に乗法公式を覚えていなくても、展開の本質が分配法則だと知っていれば展開することはできます。
正直なところ、5番目の乗法公式を使う場面は、数学1ではあまり登場しません。教材によっては扱っていない可能性もあります。
また、分配法則で展開する場合、分配法則を3セット行うので煩雑になります。これらを考慮すると、3項から2項に減らしてから1番目の乗法公式を利用することが無難です。
多項式を1つの文字に置き換える工夫は良く利用される。使えるようにしておこう。
カッコ内の多項式a-bを1つの文字に置き換えることで、2項からなる多項式(2項式)を2乗した形に置き換えることができます。
問1の解答例 1⃣
\begin{align*} \quad a-b=X \end{align*}とおくと、与式は
\begin{align*} \quad &\left(a-b+c \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(X+c \right)^2 \end{align*}2項式に置き換えたら、1番目の乗法公式に当てはめて展開します。
問1の解答例 2⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= \left(X+c \right)^2 \\[ 7pt ] &= X^2 +2cX+c^2 \end{align*}ここで注意したいのは、a-bをXに置き換えたので、それをもとに戻さなければなりません。
問1の解答例 3⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= X^2 +2cX+c^2 \\[ 7pt ] &= \left(a-b \right)^2 +2c\left(a-b \right)+c^2 \end{align*}1番目の項では乗法公式で展開し、2番目の項では分配法則で展開します。
問1の解答例 4⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= \underline{\left(a-b \right)^2} \underline{\underline{+2c \left(a-b \right)}}+c^2 \\[ 7pt ] &= \underline{a^2 -2ab+b^2} \underline{\underline{+2ca-2bc}}+c^2 \\[ 7pt ] &= a^2 +b^2 +c^2 -2ab-2bc+2ca \end{align*}計算量は少ないとは言えませんが、「項の数を減らす」という考え方が大切です。このような工夫によって、基本的な公式を利用できるようになります。
問1の考え方と解答例
\begin{align*} \text{与式} \quad \left(a-b+c \right)^2 \end{align*}考え方
\begin{align*} \quad a-b=X \end{align*}とおいて
\begin{align*} \quad \left(a+b \right)^2 = a^2 +2ab+b^2 \end{align*}を利用する。このとき
\begin{align*} &\quad a=X \\[ 7pt ] &\quad b=c \end{align*}に置き換えればよい。
ただし、展開後に
\begin{align*} \quad X=a-b \end{align*}に戻して再び展開する。
解答例
\begin{align*} \quad &\left(a-b+c \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(X+c \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &x^2 +2cX+c^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(a-b \right)^2 +2c\left(a-b \right)+c^2 \\[ 7pt ] = \ &a^2 -2ab+b^2 +2ca-2bc+c^2 \\[ 7pt ] = \ &a^2 +b^2 +c^2 -2ab-2bc+2ca \end{align*}別解として、乗法公式を当てはめて展開する解法もあります。公式と与式との対応関係を確認して展開します。符号に注意しましょう。
公式と与式の対応関係
\begin{align*} &\quad \left(a+b+c \right)^2 \\[ 7pt ] &\quad \left(a-b+c \right)^2 =\left\{a+\left(-b \right)+c \right\}^2 \end{align*}$2$ つの式を比べると
\begin{align*} &\quad a=a \\[ 7pt ] &\quad b=-b \\[ 7pt ] &\quad c=c \end{align*}与式に続く形で展開後の式を書きます。
与式の展開
\begin{align*} \left(a+b+c \right)^2 &= a^2 +b^2 +c^2 +2ab+2bc+2ca \\[ 10pt ] \left(a-b+c \right)^2 &= a^2 +\left(-b \right)^2 +c^2 +2a \cdot \left(-b \right)+2 \cdot \left(-b \right) \cdot c+2ca \end{align*}展開できたら、各項を整理すると終了です。
問1の考え方と別解例
\begin{align*} \text{与式} \quad \left(a-b+c \right)^2 = \left\{a+\left(-b \right)+c \right\}^2 \end{align*}考え方
\begin{align*} \left(a+b+c \right)^2 = a^2 +b^2 +c^2 +2ab+2bc+2ca \end{align*}を利用する。このとき
\begin{align*} &\quad a=a \\[ 7pt ] &\quad b=-b \\[ 7pt ] &\quad c=c \end{align*}に置き換えればよい。
解答例
\begin{align*} \quad &\left(a-b+c \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &a^2 +\left(-b \right)^2 +c^2 +2a \cdot \left(-b \right)+2 \cdot \left(-b \right) \cdot c+2ca \\[ 7pt ] = \ &a^2 +b^2 +c^2 -2ab-2bc+2ca \end{align*}やはり乗法公式を使った方が楽に展開できます。単純に分配法則を利用する解法は、最終手段にしましょう。
問2の解答・解説
問2
\begin{align*} \quad \left(a+b-2 \right)\left(a+b+4 \right) \end{align*}与式を見ると、2つの3項式の積です。3項式を扱った公式は1つだけなので、このままでは上手くいきそうにありません。
工夫するにあたって、項の数を減らすのが真っ先に思いつきます。ただ、もう少し考えて減らします。
さらに観察すると、2つの3項式には、共通の多項式a+bがあります。この共通の多項式を1つの文字に置き換えると、ともに2項式に置き換えることができます。
問2の解答例 1⃣
\begin{align*} \quad a+b=X \end{align*}とおくと、与式は
\begin{align*} \quad &\left(a+b-2 \right)\left(a+b+4 \right) \\[ 7pt ] = \ &\left(X-2 \right)\left(X+4 \right) \end{align*}置き換え後の与式は、2項式の積になりました。これで乗法公式を利用できます。
4番目の乗法公式に当てはめて展開します。
問2の解答例 2⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= \left(X-2 \right)\left(X+4 \right) \\[ 7pt ] &= 1 \times 1 \times X^2 +\left\{1 \times 4 + \left(-2 \right) \times 1 \right\}X + \left(-2 \right) \times 4 \\[ 7pt ] &= X^2 +2X-8 \end{align*}a+bをXに置き換えたので、それをもとに戻します。
問2の解答例 3⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= X^2 +2X-8 \\[ 7pt ] &= \left(a+b \right)^2 +2\left(a+b \right)-8 \end{align*}1番目の項では乗法公式で展開し、2番目の項では分配法則で展開します。
問2の解答例 4⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= \underline{\left(a+b \right)^2} \underline{\underline{+2\left(a+b \right)}}-8 \\[ 7pt ] &= \underline{a^2 +2ab+b^2} \underline{\underline{+2a+2b}}-8 \\[ 7pt ] &= a^2 +2ab+b^2 +2a+2b-8 \end{align*}公式と与式の対応関係を確認して展開します。展開後、Xをa-bに戻し、また展開します。展開が2回出てくるので注意しましょう。解答例は以下のようになります。
問2の考え方と別解例
\begin{align*} \text{与式} \quad \left(a+b-2 \right)\left(a+b+4 \right) \end{align*}考え方
\begin{align*} \quad a+b=X \end{align*}とおいて
\begin{align*} \quad \left(ax+b \right)\left(cx+d \right) = acx^2 +\left(ad+bc \right)x+bd \end{align*}を利用する。このとき
\begin{align*} &\quad a=1 \\[ 7pt ] &\quad b=-2 \\[ 7pt ] &\quad c=1 \\[ 7pt ] &\quad d=4 \end{align*}に置き換えればよい。
ただし、展開後に
\begin{align*} \quad X=a+b \end{align*}に戻して再び展開する。
解答例
\begin{align*} \quad &\left(a+b-2 \right)\left(a+b+4 \right) \\[ 7pt ] = \ &\left(X-2 \right)\left(X+4 \right) \\[ 7pt ] = \ &X^2 +\left\{1 \cdot 4+\left(-2 \right) \cdot 1 \right\}X+\left(-2 \right) \cdot 4 \\[ 7pt ] = \ &X^2 +2X-8 \\[ 7pt ] = \ &\left(a+b \right)^2 +2\left(a+b \right)-8 \\[ 7pt ] = \ &a^2 +2ab+b^2 +2a+2b-8 \end{align*}問2のような計算をサラッとこなせるようになれば、計算問題に関して安心して良いでしょう。
第3問の解答・解説
問3
\begin{align*} \quad \left(x-2 \right)^2 \left(x+2 \right)^2 \end{align*}与式は、2項式の2乗の積です。2項式の2乗は、乗法公式を利用できる式です。
ただ、展開した後のことを考えてみて下さい。展開後の式はそれぞれ3項式になるので、次の展開が面倒になります。
2項式の2乗をそれぞれ展開する
\begin{align*} \quad &\left(x-2 \right)^2 \left(x+2 \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(x^2 -4x+4 \right)\left(x^2 +4x+4 \right) \end{align*}カッコの中はそれぞれ $3$ 項式となり、次の展開が面倒になる。
展開のやり方が他にないかを考えてみます。
与式の2項式に注目すると、2つの式はともに2項目の符号だけが異なります。この形は乗法公式に当てはまります。展開しても2項式のままで項の数が増えません。
ただし、指数法則を利用して、乗法公式を利用できる状況に整える必要があります。
問3の解答例 1⃣
\begin{align*} \quad &\left(x-2 \right)^2 \left(x+2 \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &\left\{\left(x-2 \right)\left(x+2 \right) \right\}^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(x^2 -4 \right)^2 \end{align*}指数法則を利用する場面は意外と多いです。しっかり使いこなせるようにしておきましょう。
さらに展開して整理します。
問3の解答例 2⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &= \left(x^2 -4 \right)^2 \\[ 7pt ] &= \left(x^2 \right)^2 +2 \cdot \left(-4 \right) \cdot x^2 +\left(-4 \right)^2 \\[ 7pt ] &= x^4 -8x^2 +16 \end{align*}次数が大きくなりますが、公式に当てはめて展開しましょう。解答例は以下のようになります。
問3の考え方と別解例
\begin{align*} \text{与式} \quad \left(x-2 \right)^{2}\left(x+2 \right)^{2} \end{align*}考え方
指数法則を利用して
\begin{align*} \quad \left(a+b \right)\left(a-b \right) = a^2 -b^2 \end{align*}を利用できる形に変形する。
解答例
\begin{align*} \quad &\left(x-2 \right)^2 \left(x+2 \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &\left\{\left(x-2 \right)\left(x+2 \right) \right\}^2 \\[ 7pt ] = \ &\left\{x^2 -2^2 \right\}^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(x^2 -4 \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &\left(x^2 \right)^2 +2 \cdot \left(-4 \right) \cdot x^2 +\left(-4 \right)^2 \\[ 7pt ] = \ &x^4 -8x^2 +16 \end{align*}累乗の形なので展開したくなりますが、後の計算を考える必要がある問題です。
また、解法が複数あり、選択する解法によって難易度や計算量が変わります。難易度は決して高くありませんが、差のつきやすい良問です。
難易度の高い問題では、公式や定理をそのまま使えず、自分で状況を整える必要があるのが特徴。入試レベルでは、このような差のつきやすい問題が合否を決めるので、演習をこなして解き慣れておこう。
Recommended books
計算力は重要な要素となります。試験では考える時間を多く取るために、いかに計算を手早く行うかが重要です。
計算力の有無は、数学2・Bや数学3では顕著になります。計算に時間がかかりすぎては解けるものも解けません。後悔しないためにも日頃からしっかり鍛えておきましょう。
これから紹介する教材で気になるものがあれば、ぜひ一読してみて下さい。気に入ったら最後まで徹底的にこなしましょう。
オススメその1『合格る計算数学1・A・2・B』
オススメその2『鉄緑会 基礎力完成 数学Ⅰ・A+Ⅱ・B』
大事なことは、自分に合った教材を徹底的に活用することです。どの教材を選ぶにしても、自分の目で中身を確認し、納得してから購入することが大切です。
さいごに、もう一度まとめ
- 式をよく観察して方針を立てよう。
- 公式と与式との対応関係を把握しよう。
- 対応関係を考えるとき、符号に注意しよう。
- 多項式を1つの文字に置き換えて項の数を減らすのは、工夫の基本的な方法。
- 問題の中で、公式や定理などの使い所を把握しよう。