集合と論理|背理法について

数学1

集合と論理

今回は背理法という証明方法について学習しましょう。

背理法を使うような状況は高校数学では意外と少なく、問題を見たときに背理法を利用できるかどうかを判断しやすいです。ただ、背理法は、独特な証明方法なので、まずはロジックを理解することに努めましょう。

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背理法について

ある命題によっては、真偽の判断や証明がどうしても難しいものがあります。しかし、そのような命題に対して、対偶を利用すれば真偽を判断できることをすでに学習しています。

今回は、命題の証明に背理法を使う方法を学習します。

背理法とは、ある命題の証明をするために、結論が正しくないと仮定して、そこから矛盾を引き出し結論が正しいとする証明方法のことです。

背理法について
背理法とは

これまでの証明問題であれば、与えられた条件から結論が成り立つことを示しました。しかし、背理法では、命題の結論が正しくないと仮定、つまり、結論の否定が正しいと仮定します。

結論の否定が正しいと仮定すると、当然ながら途中で矛盾が生じてしまいます。矛盾が生じたのは、最初の仮定が間違っているからで、裏を返せばもとの結論は正しいと言えます。これが背理法のロジックです。

これまでの証明が直接的であるのに対して、背理法はどちらかと言うと間接的な証明方法になります。

また、背理法を上手に利用するために、命題から結論を正しく読み取り、結論の否定をつくらなければなりません。条件の否定は、補集合や命題の裏でも学習したので、しっかり復習できていれば簡単に求めることができるでしょう。

背理法の有効性

背理法は、命題を直接的に証明するのが難しいときに利用する方法です。

たとえば、「ある数が無理数である」ことの証明は非常に難しいです。無理数が有理数ではない実数だからです。

「これが無理数だ」と言えないので、直接的に証明するのが難しいのです。このような証明では、背理法が特に有効です。

背理法の興味深いところは、結論の否定を仮定として扱うので、必ず矛盾が生じるところです。

与えられた命題は、証明自体は難しくても真であることは確かなので、結論の否定を仮定としても矛盾が起こるのは当たり前です。その矛盾でもって「結論の否定は間違っている」、つまり「もとの結論の方が正しい」と話を持っていくわけです。

背理法のロジックを理解しよう

命題「p⇒q」の証明

  1. 条件qの否定が成り立つと仮定する。
  2. 仮定をもとに話を進める。
  3. 途中で矛盾が生じる。
  4. 矛盾が生じたのは最初に成り立つと仮定した結論(qの否定)が間違っている、つまり、もとの結論qは正しい。
  5. よって命題は成り立つ。

命題を直接的ではなく間接的に証明するので、何だか回りくどいと感じるかもしれません。ただ、否定した結論が成り立つと仮定しても矛盾が生じるのは確かなので、自分で仮定した命題が成り立たないことは示せます。

背理法の有効性
背理法の有効性

背理法に近いものには、対偶による命題の真偽判定があります。

これらは間接的ではありますが、視点を変えて物事を捉える方法の1つです。ですから、客観性や柔軟性を養うにはちょうど良い事柄だと思います。

物事を多角的な視点から捉える能力は、初見の問題やレベルの高い問題では重宝するので、しっかり鍛えておきたい。

背理法を使った証明の一例

背理法を使った証明に「ある数が無理数である」ことの証明があります。無理数であることの証明と言えば背理法と言われるくらい有名です。

背理法を使った証明の流れを確認してみましょう。

背理法を使った証明の一例

「 $a$ が有理数、$b$ が無理数であるとき、$a+b$ が無理数である」ことの証明

命題の結論は「a+bが無理数である」です。この命題の否定は「a+bが有理数である」です。a+bは多項式なので、扱いやすいように単項式で表します。

背理法を使った証明 1⃣

$a+b$ が有理数であると仮定する。

このとき、有理数 $c$ を用いて

\begin{align*} \quad a+b=c \end{align*}

と表せる。

等式を変形して、矛盾を引き出します。

背理法を使った証明 2⃣

\begin{align*} \quad &\vdots \\[ 7pt ] \quad a &+b=c \\[ 7pt ] \quad &\vdots \end{align*}

等式を変形すると

\begin{align*} \quad b=c-a \quad \cdots \text{①} \end{align*}

$a$ は有理数であるので、①の右辺は有理数である。

よって、①の左辺は有理数となり、$b$ が無理数であることに矛盾する。

したがって、$a+b$ は無理数である。

結論を否定したものが成り立つと仮定すると、もとからある条件(aが有理数、bが無理数)との間に矛盾が出てきます。

無理数と有理数が等しくなるわけがないので、①式は矛盾した等式です。つまり、①式を導くことが矛盾を示すことになります。

このような矛盾が生じたのは、「a+bが有理数である」と仮定したことが原因です。ですから、この仮定自体が間違っていると言えます。命題が成り立つには、否定する前の結論「a+bが無理数である」が正しいことが分かります。

「ある数が無理数である」ことの証明では、矛盾を示すには(無理数)=(有理数)となる等式を導く。

矛盾を示し、自分の設定した仮定を取り下げれば証明は終了ですが、最後に問題文の文言をそのまま付け加えて体裁を整えましょう。

証明の記述例やポイントをまとめると以下のようになります。

背理法を使った証明の例
証明の記述例やポイント

証明問題では、目標(=結論)が明らかです。ですから、どのように証明していくかを結論から遡って考えてみると、無駄のない答案作成ができます。

無理数の例で言えば、有理数という仮定で矛盾を生じさせるには、無理数bを上手く使う必要があります。そのために「(無理数)=(有理数)」の式を作りました。

もう少し付け加えると、背理法が有効なのは有理数と無理数の関係のように、物事を2つに分類できるときです。このとき、一方でなければ必ず他方になると言えるからです。

そうすると、3つ以上では上手くいかないことにも気付きます。たとえば、A,B,Cの3つに分類されるとき、Aでないことが分かってもBかCのどちらかまでしか分かりません。

背理法のような証明方法を上手に利用するためにも、対概念を覚えていきましょう。

次に、背理法を扱った問題を実際に解いてみましょう。