数学1|図形を扱った入試問題を解いてみよう
今回、紹介する問題は図形問題です。一見して簡単そうに見えますが、意外と難しい問題です。
図形を扱った問題の場合、解ける解けないの差がはっきりするような気がします。やはり慣れが必要かもしれません。
過去問を解いてみよう
過去の入試問題になります。最初は力試しに自力で解いてみることをお勧めします。
問題
図において
\begin{align*} &\quad \angle {BOC}=30^{\circ} \\[ 7pt ] &\quad OA=BC=2 \end{align*}とするとき、$AB^{\scriptsize{3}}$ を求めよ。
自力で解けない人は、以下の「問題を解く前に」を確認しましょう。
問題を解く前に
方針を決めよう
マーク形式レベルであれば、方針に複数の候補がほとんど出てこないので、問題を読めばすぐに取り掛かれます。
それに対して、記述形式レベル(大学別の個別試験、通称2次試験レベル)になると、方針の候補が1つではない問題が多くなります。そもそも方針自体を立てることが難しい問題も多いでしょう。
そんな問題に対して、方針があやふやなままでは解ききることは困難です。完答は無理でも、部分点を確保するには、答案の中で方針を示す必要があります。
要するに、記述形式レベルを問題を解くには、記述する前に方針をきちんと決めることがとても大切になります。
本問は、図形の辺の長さを求める問題です。辺の長さの求め方としては、主に3つが考えられます。
辺の長さを求めるときに利用するもの
- 三平方の定理
- 相似の関係
- 三角比
与えられた図を観察すると、3つの三角形があることが分かります。△OAB,△OBC,△OACの3つです。
与えられた角の大きさや辺の長さから、相似の関係を利用することはこのままでは無理そうです。三平方の定理か三角比に絞って各三角形を見ていきます。
△OABについて
△OABは∠OAB=90°の直角三角形です。ABの長さを求めるにあたって、真っ先に目に注目する三角形でしょう。
直角三角形なので、三平方の定理を利用できます。三平方の定理から辺の長さを求めるには、少なくとも2辺の長さを必要とします。
残念ながら、長さを与えられたのは、3辺のうちOAだけです。OBの長さが分かれば良いのですが難しそうです。
△OBCについて
△OBCは、直角三角形ではありませんが、∠COB=30°の三角形です。
△OBCはABに直接関係するわけではありません。しかし、△OABとOBを共有しています。ですから、余弦定理を利用して、OBの長さを求めたいところです。
余弦定理の式は、1つの内角と3つの辺の関係を表します。もし、内角の大きさを求めるのであれば、3辺の長さが分かっていることが条件です。また、1辺の長さを求めるのであれば、内角の大きさと2辺の長さが分かっていることが条件です。
△OBCにおいて、余弦定理からOBの長さを求めるとすれば、OCの長さが必要になります。残念ながら、長さを与えられたのは、3辺のうちBCだけです。OCの長さが分かれば良いのですが難しそうです。
△OACについて
△OACは∠AOC=120°の三角形です。∠AOC=∠AOB+∠BOCが成り立ちます。
ACの長さが分かれば、ABの長さが分かります。しかし、この三角形でもOCの長さが分からないので、余弦定理を利用できません。
このように各三角形を見てみると、どれも1辺の長さの情報が足りない状況になっています。ここから分かるのは、この問題のポイントが「足りない辺の長さをどのようにして得るか」ということです。
また、以上の考察から、ABの長さを求めるのに効率の良さそうな辺の長さは、OCの長さではないかと予想できます。
与えられた角の大きさを活用する
以上の考察を踏まえて、与えられた∠BOCの大きさ(30°)を活用できないかを考えます。頂点Cから直線OAに垂線を下ろし、その足をHとします。
補助線である垂線を使って、新たな△OCHを作ります。△OCHは∠COH=90°の直角三角形です。しかも、∠COH=60°であるので、3辺の比を利用できます。
また、OBとCHは平行なので、平行線と線分の比の関係も利用できます。これを利用すれば、OHの長さをABを用いて表すことができそうです。
OHの長さが決まれば、3辺の比を利用してOCの長さも決まります。これで大まかな方針が決まりました。与えられた30°の使い方に気付けるかどうかで見通しの良さがだいぶ変わります。
問題の解答・解説
求めたいABの長さをxとおき、平行線と線分の比を利用してOHをABで表します。
問題の解答例 1⃣
\begin{align*} \quad AB=x \quad (\gt 0) \end{align*}とおく。
$AB$ と $CH$ は平行であるので
\begin{align*} \quad AB : BC = AO : OH \end{align*}が成り立つ。よって
\begin{align*} \quad x : 2 = 2 : OH \end{align*}より
\begin{align*} \quad OH= \frac{4}{x} \quad \cdots \text{①} \end{align*}直角三角形である△OCHに注目します。3辺の比、または三角比を利用して、OCをABで表します。
問題の解答例 2⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad OH= \frac{4}{x} \quad \cdots \text{①} \end{align*}$\triangle {OCH}$ において
\begin{align*} \quad \angle {COH}=60^{\circ} \end{align*}であるので
\begin{align*} \quad OH=OC \cos {60^{\circ}} \end{align*}よって
\begin{align*} \quad OC=2OH \end{align*}これと①より
\begin{align*} \quad OC=\frac{8}{x} \end{align*}これで念願のOCの長さが決まりました。△OACの3辺の長さは、値こそ分かりませんが、文字を用いて表せるのですべて埋まっています。
また、∠AOC=120°であるので、内角も1つ分かっています。
△OACにおいて余弦定理を利用できる条件が揃いました。余弦定理を利用して、xについての方程式を導き、そして解きます。
問題の解答例 3⃣
\begin{align*} &\quad \vdots \\[ 7pt ] &\quad OC=\frac{8}{x} \end{align*}$\triangle {OAC}$ において、余弦定理より
\begin{align*} \quad AC^{2}=OA^{2}+OC^{2}-2OA \cdot OC \cos {120^{\circ}} \end{align*}よって
\begin{align*} \quad \left(x+2 \right)^{2}=2^{2}+\left( \frac{8}{x} \right)^{2}-2 \cdot 2 \cdot \frac{8}{x} \cdot \left( -\frac{1}{2} \right) \end{align*}これを整理すると
\begin{align*} &\Longleftrightarrow \quad x^{2}+4x+4=4+\frac{64}{x^{2}}+\frac{16}{x} \\[ 7pt ] &\Longleftrightarrow \quad x^{2}+4x=\frac{64}{x^{2}}+\frac{16}{x} \\[ 7pt ] &\Longleftrightarrow \quad x \left(x+4 \right)=\frac{16}{x^{2}} \left(4+x \right) \\[ 7pt ] &\Longleftrightarrow \quad x^{3} \left(x+4 \right)=16 \left( x+4 \right) \quad (\because \ x^{2} \neq 0) \\[ 7pt ] &\Longleftrightarrow \quad x^{3}=16 \quad (\because \ x+4 \neq 0) \end{align*}ここで
\begin{align*} \quad x=AB \end{align*}であるので
\begin{align*} \quad AB^{3}=16 \end{align*}xについての方程式を導いた後は、要領よく変形していきましょう。解答例を見れば大したことではないと分かりますが、実際に解いてみると意外と考えさせられます。
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